フェイク



――インターミッション――



「そろそろ交代しますよ」
 そういって車のドアを叩いたのは、忠実な部下ウォッカである。ジンがシェリーの部屋にしけこんでから、五日ほど後のこと。あくまで個人的な監視であるから、余人の援助など望むべくもなかったが、毎夜 任務のあとにひとり夜勤を決めこんでいる、上司に対する労りの気持ちがウォッカにはあった。

 研究所での仕事を終えて、毎晩遅くにシェリーはこの道を通る。連れはいない。今日はもう買い物袋を抱えて、帰宅したあとだ。
 ふと視界の端を何かがよぎった気がして、ジンは眼を細めた。
「寒いっすね。雪でも降ってくるんじゃないですか。暖かいの買ってきましたんで」
 ウォッカの差し出すデリの美味しそうなスープもそこそこに、ジンの視線は路上に飛んでいた。
 変装しているが間違いない。あいつだ。俺の前を堂々と通りすぎるとは、いい度胸だ。シェリーのいるマンションに吸い込まれていく目指す標的を見ながら、渡されたスープをひとくち啜り、
「うまいな」
 ジンは呟いてニヤリとした。




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