シェリーの憂鬱 ―― 第二幕 ―― かすかに身じろぎをしてシェリーが目覚めた。体のあちこちに鈍い痛みを覚え、特に口腔には粘つく気持ちの悪さを感じる。 ここはどこ? 虚ろな目をして自分に問いかける。なんで私は裸なんだろう。お姉ちゃんは服を着て寝ているのに。シェリーの服は傍らに置かれていた。その上に乗っているスカーフ……?! その途端、先ほどまでのおぞましい記憶が蘇る。跳ね起きて明美の様子を間近に見たかったが、体が言うことをきかない。嬲りつくされた爪痕が、あちこちに残されていた。 手錠は外され、両手は自由になっていたが、手首にはうっすらと拘束の印が残されている。 フラリと起き上がる。体に風穴が開けられたような破瓜にも似た不可思議な感覚。 明美に近づく。自分が意識を失っている間に、姉の身に何か起こったのではないか、今のシェリーの心配はそれだ。変わらぬ安らかな呼吸、衣服に乱れた様子もない。少し安心する。 これで終わりなのか、二人とも解放されるのか。シェリーは小走りにドアに駆け寄った。ホテルの一室のはずだが、どのような仕組みなのか、内側からは開かないようにロックされている。部屋中調べて回るが、他に人はいない。また脱出の術もないようだ。 虚脱感、そして胸騒ぎ。 それでもシェリーは現実的に行動した。身支度を整え、来るべき事態に備えること。 シェリーの姿はバスルームへと消えた。 シェリーがバスルームに消えて暫くして、ベッドの上で明美が動いた。ゆっくりと。 熱い……体が燃えている。喉が渇いた、誰か水を……。 体の内から、湧き上がるような熱さで、明美は目覚めた。 薄く目をあけ、あたりを見回す。そうだ、ここは……私はこの部屋に連れてこられたのだった。友人に会いに出かけようと支度をしていた時、組織から連絡があったのだ。 シェリーを、志保を助けてほしいと。詳しい説明は何もなかった。そのまま迎えの車に乗った。この部屋で待っていて欲しいと言われ、コーヒーに口をつけ、そして……。 あの時 何か飲まされたのだろうか。すぐに意識が遠のいた。 そして、志保は、あの子はどこにいるの。 思い出して慌てて起き上がる。 ビクンッ! 体が慄く。これはなに? 苦しい。息ができない。はぁ……はぁっ……。 うっすら汗ばんで、黒髪が額にはりつく。体の奥底がじっとしていられないくらい熱くなる。スーツの上着を脱ぎ捨てる。震える指でブラウスのボタンを外していく。何をしているのか、明美自身にも判らなくなりつつあった。 熱い、疼く、体が燃えるようだ……誰か助けて……志保! タオルをまとい、バスルームから出てきたシェリーが目にしたもの。それは異様な光景だった。ベッドの上でブラウスの胸元をはだけ、乳房も露わに自分の胸をもてあそぶ姉。ストッキングも下着も膝下まで降ろされ、たくしあげられたタイトスカートの中では、せわしなく手が蠢いている。 「熱い、熱くてたまらないの。た、すけ、て……志保……」 「お、お姉ちゃん……」 明美の眼は虚ろだが、志保を認めるだけの意識は残っているようだった。淫らでふしだらで、煽情的な姉の姿。立てた膝の隙間から覗くのは、黒い繁みと赤い秘裂、そして白い指のコントラスト。 動揺するシェリーの頭の上から、男の声がした。 『さきほど我々が部屋を出る前に、君が研究中のクスリを投与させてもらった。いわばこれは、臨床実験になるね』 「あのクスリを……! まだ研究途上で、何の成果も出ていないと言うのに!」 シェリーが頭上のスピーカーに向かって叫ぶ。 『そうだ、我々の希望する成果はまだ得られていない。でも途中で面白い副作用が見られたのではなかったかね?』 頭の中のデータを弾き、経過を報告したレポートを思い出す。 [……については際立った効果は現れず、但し副作用として催淫剤に似た効果を持ち、即効性。効果持続時間等は臨床により明らかになると思われ……] 冷汗とともに、シェリーの唇が震える。明美の今の状態は、自分が携わった開発途中のあのクスリによるもの。そんな、そんなまさか……。 そんな遣り取りが耳に入っているのか、それとも朦朧として理解できないのか、明美は喘ぎながら自身の秘裂に指を遣いつづける。痛ましさにシェリーは思わずその手を押えた。 「あ、ぁあん、ダメよ、志保。……オカシイの。何回イっても終わらないんだから」 囁く明美の甘い声、シェリーは眩暈をおぼえた。 『クックックッ……、時間はたっぷりある。しっかりと臨床結果の報告をしてくれたまえ』 「待って! いったい私達はいつ解放してもらえるの?」 『そのクスリの効果が切れるまで、だな。何時になるか、それは君の方が詳しいのではないかね?』 カチリと接続の切れる音が、スピーカーから響いた。 呆然としてそばにいる明美に目を移す。 クスリの効果が切れるまで、それは何時だろう。 今夜中? それとも明日? 少し冷静な科学者の目で明美を観察する。呼吸が乱れている。軽く手首を取ると、脈拍もだいぶ早いようだ。額には多量の汗が浮き、目は相変わらず虚ろなままである。 「暑いのね、お姉ちゃん。服を……脱ごうね」 額の汗をタオルでぬぐいながら、シェリーが、いや志保が囁く。朦朧とした意識の明美に、頑是無い子供に言い聞かすように。 返事はないが、そのままブラウスの残ったボタンを外す。ブラウスを脱がせるとき、明美の動作は緩慢だが、体に触れるとビクンと反応する。 ブラのホックもはずす。明美が大きく吐息をつく。志保のそれより一回り大きく、量感のある乳房があらためて露出する。 解放された乳首をふたたび弄び始める明美。皮膚感覚が極度に過敏になり、より性感が得やすい状態になっているようだ。喘ぎ声と、手の動きは止まらない。 性的悦楽は歓びだ。本人が望んで手に入れるモノならば、絶頂は女にとって蕩けるような至福の瞬間になるはずだ。だが、ただクスリの作用によって突き動かされ、快楽の無間地獄を味わっているとしたら。 ひくつきながら、絶頂へと向かいつつある、明美を見つめ、志保は忸怩たる気持ちで想像する。 「んぁ……あふッ……イクっ、イっちゃうーーっ!」 明美は何度目の絶頂を迎えているのだろうか。そのすぐ後には、飽きることなく、次の快楽への階段を駆け上ろうとする。息遣いはますます荒くなり、体力の消耗が気にかかる。何とかして止めさせなければ。 「駄目よ」 志保は明美の手を押さえつけ、手首をとって頭上にあげさせると、スカーフの端で軽く拘束した。もう一方の端をベッドヘッドに括りつける。 「やっ……、疼くの、ほどい、て……」 抗いながらも、体をくねらせ身悶えしながら明美が喘ぐ。その光景を見ながら、志保の心は決まった。いつまで続くか分からない、クスリの効力が残るあいだ、明美を快楽の迷宮から少しでも楽にしてあげたい。激しく追い立てることなく、ゆっくりと快感の波をコントロールするのだ、志保自身の手で。 明美のうっすらと汗ばむ胸を、包み込むようにそっと手を触れる。とたんに体が跳ねあがる。 「はんっ」 違う。もっとゆっくりだ。もっと優しく柔らかく。志保は自分に言い聞かせる。耳朶に唇をよせ、軽くはさむ。 「ぁん……」 明美の声が甘く響く。快楽だけを求め続ける明美の上気した頬は、こんな状況でも艶かしくみえた。志保の心に、愛しさがこみあげる。 「急いじゃダメ。もっとゆっくり遊ぶんだから」 そう言いながら、舌を耳にそって這わせる。尖らせた舌を遊ばせながら、耳穴に侵入させる。溜息のような吐息が洩れる。 いつだって守ったり守られたりしながら、二人で生きてきた。今は、明美をできる限り、守ってあげたい。耳からうなじへ、唇を這わせながら、志保はそう思う。 首から肩へ、音を立ててキスをする。明美の背は軽くそり、何かを待ち受けるように、尖った乳首が震えて揺れる。もう志保には、明美が次に何を望んでいるのかが、すべて判るようになっていた。 濡れた舌で、乳首を軽くつつく。嬌声と一緒に、太腿をすりあわせて身をよじる。あまり焦らすのは得策ではない。そう考え明美の求めに応じて、スカートのホックに手をかける。膝元まで下ろされているストッキングや下着もろとも、取り去る。 あらためて一糸纏わぬ姿となった、姉の肢体を見遣る。黒髪を乱して、身じろぎしながら喘ぐその姿に、しばし見とれてしまう。 そして、志保自身もバスタオルを取り去り、明美の上に覆い被さっていく。 重ねる唇。いつまでも飽くことなく交換し合う唾液と舌の動き。人肌とはこんなにも暖かいものだったのか。 唇を離した瞬間、明美が喉の奥で小さく笑ったような気がした。 指で手の平で、舌と唇で、姉の身体の曲線を、余すところなく感じ取っていく。誘うように明美の足が志保に絡み、恥丘がこすれあう。起き上がり明美の足元に移動すると、その膝を割って開いた。 湿り気を帯びてより艶を増した翳り、期待感から蜜を溢れ出させるその部分に唇を寄せ、吸いとる。押さえていた膝が大きく震えた。 内腿に手をかけ、割れ目を押し開く。先程まで明美自身で嬲り続けていた為か、ぬめる粒は大きく膨らみきって、痛々しいまでに紅い。粒を指で擦ろうとして、志保はためらう。 思い直して、口の中に溜めた唾液を一滴、明美の紅い粒に向けてポタリと垂らした。強ばる足と切ない声が、明美の絶頂が間近なのを知らせている。 その機を逃さず、紅い粒に吐息を吹きかけ、ひくつく襞の内に尖らせた舌を差し入れた。襞の内壁を舌で軽くこする。足が志保の頭を強く挟み込み、その一撃で明美は達した。 余韻を味わいながら、大きく息をつく明美をいたわって、志保は手首のスカーフをほどき、拘束していた両手を解放する。クスリの及ぼしている効果を確かめるように、姉の様子を観察しながら。 「だいじょうぶ? お姉ちゃん……?」 問いかけても返事はない。明美自身、快楽に溺れる意識の中で、この現状を認識しているのか、いないのか、定かではない。それでも、満足げな表情を浮かべているのを、少し安堵した想いで見つめる。 だが次の瞬間、立場が入れ替わった。明美が志保の手首をとり、その体を反転させた。そんな体力が、どこに残っていたのだろう。それでも呆気にとられる志保に、抵抗する気持ちはない。投与されたクスリが、研究途中のモノである以上、明美の意のままになるのは、贖罪となるはずだから。 両足の間に膝を割り入れ、胸に吸い付いてくる明美を受け入れた。 「志保も気持ち良くならないと……。ほら、ココもこんなになってる……ふふっ」 唄うように呟きながら、指先で敏感な部分をなぞりあげてくる。普段とまったく違う姉の様子に戦慄するが、同時に自分のそこが濡れそぼっているのを思い知る。 明美は思うがまま、志保を嬲り責め立て、快感の声をあげさせる。クスリの作用によって煽られた熱が、志保にまで飛び火したかのようだ。 そして体を起こすと馬乗りになり、足を開いて翳りの部分を擦りあわせるようにする。充分に潤んだ粒を、上から押し潰すような衝撃に、志保はシーツを引き掴んで耐えている。 明美の指が志保の指を捉え、絡みつき、しなやかな足が志保の体を挟むように差し込まれた。 「何をする……の……ひっ!!」 互いの秘部を重ね合わせ、こすりあい、溢れる液が絡まり、妖しい音を立てる。明美自身もうめきながら、腰をくねらせる。 何かの隙間を埋めるのではなく、与え合い受け止めあう。志保は明美の足先を口に含んだ。足指の形まで舌に記憶させるように、なぞり舐め尽くす。 嬌声をあげながら、蕩けて混じり合う。室内には粘膜の擦れあう音が、いつまでも飽きることなく満ちていった。 Back Next |