シェリーの憂鬱 ―― カーテンコール ―― 「ミイラ取りがミイラになった、ようですね」 「クッ……。女同士はキリがない、と言うからな」 モニターで絡みあう二人の姿を見ながら、男たちが倦んだように会話する。常人にとっては淫靡にうつる光景も、組織に属する彼らにとっては、仕事の一環でしかない。 「ロックは、どうします?」 「適当な頃合を見計らって解除しておけ」 「了解しました。で、写真はいつものように?」 「ああ、もちろん」 いつかその写真が役立つ日が来るだろうさ。 男はモニターのスイッチを切って、紫煙を燻らせた。 「どうしたのよ? 元気がないわね。仕事が忙しいんじゃない?」 屈託した様子の志保に、明美が尋ねる。 「そう、かもね。ちょっと寝不足だわ」 久しぶりの休日、志保は明美の部屋に立ち寄ってくつろいでいた。 志保の心が屈託している原因は、例によってポストに投げ込まれた、数葉の写真である。そこに撮られているのは、すべて淫らなポーズで喘いでいる明美だった。 姉の身に何か変化はないかと、休日を利用して訪ねてきたのだが……。 幸いにして、明美はあの夜のことを、まったく記憶していなかった。頭の中のデータに付け加える。 [……催淫作用は約十二時間から十六時間程度の効果。錯乱、または記憶への混乱をみる。……] 志保は組織に対する澱のようによどむ怒りを感じながら、陽の光りをあびて普段通りの顔で話し続ける姉を見つめている。 そこには、いつもと変わらぬ一時の安らぎが、たしかにあった。 Back ――― fin. |