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 シェリーの憂鬱



―― 第一幕 ――



 到着した場所は、ホテルの一室だった。豪奢な造りの部屋の中に待つ人物は三名。初老にさしかかった男が一人と、明らかに組織の人間らしく黒づくめの服装の人物が二人。
 今夜のゲストは初老の男で、あとの二人はサポート役、すなわちシェリーの監視役なのだろう。
 無言のまま一枚のスカーフが、シェリーに手渡される。
 着替えのための別室は、用意されていないようだ。男たちはこの場所でストリップから楽しもうというのか。シェリーの体が羞恥でカッと火照る。
 自分はいま何の為にここにいるのか? 組織のためと言うより、何より明美のためだ。そう思い至ってシェリーは深く息を吸うと、するりと衣服を脱ぎ捨てて、形の良い乳房や薄っすらとした翳りをおびた下腹部を、惜しげもなく男たちの眼前に晒した。
 最後に腰にスカーフを結びつけ翳りの部分を少し隠し終わると、シェリーは男たちの間に誘われた。
 男たちはグラスを傾けながら、ソファに座って談笑している。その足元で、毛足の長い絨毯に膝をついて深々と会釈をしながら、シェリーは与えられた屈辱の時を静かに待っていた。


「さて、始めてもらおうかな」
 ゲストの男は短くそう言うと、シェリーを自分の座っている足の間に招き寄せた。口での奉仕の強要である。今日のゲストの男が、どういう趣向を求めているのか、シェリーにはまだ見抜くことができない。穏やかに微笑んでいるように見えて、細められた二つの目がどことなく残忍な光りを帯びているのを、ゾクリとする思いで見返した。
 ともあれ、ここまで来たら後へ引く事は許されない。シェリーはためらいがちに男のベルトを外すと、ズボンのチャックを下げ男のモノを取り出した。
 そして本心はおそるおそるであったが、ゲストにそう悟られないように、ねっとりとした視線で唇を近づけた。オレンジ系のルージュで形よく縁取られた唇に、半勃ちのものをふくんでいく。口腔内で舌を動かし、奥まで飲み込むように、咥えこむ。シェリーの舌戯はまだ稚拙だったが、その熱心で一生懸命な奉仕は、ゲストの男の眼を細めさせた。
「なかなか具合がいい。だが男を歓ばすには、まだまだだな」
 そう言うと、男はシェリーの頭を両手ではさみ、グイグイと前後に揺らした。
「ぅぐっ。んぐぅ」
 奥まで咥えこみ続ける苦しさに、シェリーの目に涙が浮かぶ。それでも男は許さずにシェリーの口を喉元まで犯し続ける、何度も。そのたびに口元からは卑猥な水音が聞こえ、唾液にまみれた男のモノが、黒光りして見える。
 シェリーの身を挺した奉仕の後ろでは、残った男たちによって中央のテーブルが片付けられ、シェリーを贄にするための空間が設けられた。
「予想通りのイイ顔をする。これからもっとその顔を見せてもらおう」
 ようやっと口から男根を引き抜くと、男は低い声で呟いた。
 これから、何を?
 苦しさから解放されたシェリーは、大きく息をついた。が、考えをめぐらせる暇もなく細い手首には、背後に立っていた組織の男によって、後ろ手にガチャリと冷たい手錠がかけられた。



 反射的にシェリーは後ろを振り向く。その隙に前から、無防備にツンと上向いているピンク色の乳首を、クリリと摘み上げられた。
「ひっ!」
 快感より痛みと恐怖を覚えて、思わず声が上がる。
「私は、普通の楽しみ方では、満足ができないタチでね」
 諭すように話しながら、ゲストの男は片手で乳首を玩び、もう一方の手を翳りの帯びた秘裂へと侵入させていく。経験が浅いとはいえ、男を知らない体ではないシェリーのその部分は、しっとりと潤んで、男の指が分け入るのを容易にした。
 ぬめる指は膨らんだ小さな突起を探り当て、執拗に弄り続ける。腰が熱くなり、唇からは艶めいた喘ぎを漏らす。
「準備ができたようだ。立ちなさい」
 突然そう言われて、シェリーは快感の淵から呼び戻された。
 立ち上がって辺りを見回すと、黒づくめの男たちは既に衣服を脱ぎ捨て、全裸になっている。色の浅黒い大柄な男に、細身の色白の男。彼らの仕事はシェリーの監視役だけではなかった。
 ゲストの男も服を脱ぎ始めている。
 細身の男の手によって、シェリーの体が軽々と、後ろから抱き上げられる。膝を割られ、濡れて光る部分もあらわにされる。腰にまとったスカーフは、もうお飾り以外の何の役目もしていない。
「何を……!」
 上半身をくねらせ、足先をバタバタさせてシェリーは抵抗するが、細身の男は意外に膂力があるのか、がっちりと絡めとられて、逃げ出す事もできない。
 そしてそのまま、母親が赤ん坊におしっこをさせるようなポーズで、ゆっくりと下に降ろされる。
 床の上では、もう一人の大柄な男が、仰向けの姿勢で待ち構えるように、ペニスを屹立させている。剥き出しの花芯を的にして、ズブリと突き刺すようにシェリーの体は男に受け止められた。
 屈辱の瞬間を、シェリーは正視できず目を硬く閉じて、唇をかみ締めて受け入れた。そして心で小さく哭いた。


 自重で腰の奥まで穿たれた衝撃に、シェリーは思わず顔をしかめる。それでも体の芯を突き上げる熱さに、痺れるようなおののきが広がっていく。
「お人形サンじゃ困るんだがな」
 下になった男は、ときおり不規則にシェリーの奥を突き上げながら、嘲るように言う。
 シェリーとて今夜の目的を忘れたわけではない。ゲストの男の希望が「鑑賞」なら、その目を楽しませなければならない。手の使えない不自由な体勢ながら、片膝を立てて、腰を上下するように動かす。そのたびに部屋の中に満ちていく、卑猥な水音。
 ゲストの男は、しばし面白そうにそのショーを眺めていたが、やがて飽き足らなくなったのか、シェリーの傍らに立って、その背筋を、まろやかな尻を、動くたびに揺れる乳房を、嬲りはじめる。
 体のあちこちに加えられる愛撫に合わせ、絶妙のタイミングでシェリーの中が下から捏ねまわされる。ともすればシェリー自身、今夜の目的も忘れ快感に溺れそうになっていた。
 愛撫の指が、シェリーのはちきれそうに膨らんだ花芽に伸びる。滴る液で濡らした指でツルンと剥かれ、同時に男の唇が乳首を軽く噛んだ。
「あ……ひぃぃぃんっ!」
 ひときわ甲高い声が上がる。
 下になった男はシェリーの腰を両手で支え、ぐいぐいと責め立てる。喘ぎ声は、だんだんとせわしくなっていき、絶頂が間近に迫っている事を伝えている。
 愛撫を続ける男の手は、抜き差しされる度に汁が溢れでる接合部に触れて、たっぷりと指を浸すと、その後ろで小さく蕾んでいる部分に、ぬめる液を塗りつけた。
「ひっ!」
 男の意図を察したシェリーの体が、ビクンと跳ねる。かまわずに男は指を捻じりこむ。ゾクッとするえもいわれぬ感覚が、背筋を這いのぼる。
「ひゃ……、やっ……」
 直腸内を掻きまわされ、抜き差しする指から逃れるように、シェリーの上半身は、前のめりに倒れた。下になっている男が、肩を支えるようにして、がっしりと抱きとめる。
 思わぬ箇所を攻撃されて、絶頂が近づいていた先ほどまでとは全く違う感覚に、今のシェリーは支配されていた。
 それは快感なのか、それともおぞましさなのか。惑乱の余り、既にどちらかわからなくなっていた。ただ腰からうなじまで突き抜ける、産毛を逆立てるような、悪寒に似たモノだけを感じている。
「ぁくっ、ふはっ……」
「さっきまでとは違う、イイ声で鳴きだしたな」
 下からは変わらぬテンポで突き上げながら、嘲るように言う。
「あ!!」
 指をいきなり抜かれ、蕾みには冷たくぬるぬるするモノが塗りつけられる。その感触から潤滑剤のようなモノだと知る。思わず首を回して後ろを振り向いたシェリーに、ゲストの男はニヤリと笑って呟いた。
「言っただろう? 私は普通の楽しみ方では満足できないのだと」
 男はシェリーの柔らかな腰を掴むと、蕾みに硬くなったモノの先端を押し当てた。
「今までに、ココに男を受け入れたことがあるかね?」



 これから自分の身に起こることを想像して、シェリーの目からじわりと涙がにじむ。
「どうなんだ? 答えなさい!」
「い……いいえ。や、めて、それだけは……」
 答える声が震えている。
「嫌なら、別な人に代わってもらってもいいのだがね」
 ボソリと、下になっていた組織の男が言う。
 それが合図だったように、もう1人の細身の男が、サイドテーブルに乗った小さなリモコンを手に取った。微かな音がしてさっきまで壁であった場所にもうひとつ、部屋が出現した。
 デジャビュだ。いやきっと悪夢に相違ない。いつか見たイヤな夢の続きかと、シェリーはわが目を疑った。そう、小ぶりに作られたベッドルームに寝かされて、安らかな吐息を立てているのは、まぎれもなく姉の明美だった。
「お、ねぇちゃん……」
 虚をつかれて今の状況も忘れ、組織のシェリーではなく素の志保の顔が出る。
 約束が違うじゃないか。いや、いつもこいつらはそうだ。そういうヤリ口なのだ。約束など、人の心など、簡単に踏みにじる。憤りでシェリーの頬が朱に染まる。
「選手交代かね?」
「いいえ。私がこのままお相手を努めます」
 明美の寝顔を見た瞬間から、シェリーの心は決まっていた。
「いい覚悟だ。それなら『私の汚いお尻の穴も、どうぞ埋めてふさいでください』と言ってみろ」
 初老のゲストの男は、その年齢に似つかわしくないギラギラした瞳で、シェリーを見つめる。片手で形のよい顎を上げさせると、潤滑剤を塗りつけた己のペニスをしごき立てている様子を、見せつけるようにする。
 シェリーの視界にその光景は入っていたが、実際に見ているのは透かし絵のように男の向こうに横たわる、明美の寝姿だけだった。

「ワタシノ キタナイ オシリノアナモ ドウゾ ウメテ フサイデ クダサイ」 

 今度は言葉も震えなかった。スラスラと唇をついて、無機質な感情のまったく籠もらぬ声で、シェリーは淡々と呟いた。心のどこかが麻痺し始めているのかもしれなかった。
 それでも男は満足した様子で、シェリーの後ろに位置を変える。殆どオブザーバーと化している細身の男が、手早く腰からスカーフを剥ぎ取り、猿轡にして口をいましめた。
 再び指で掻き回されるシェリーの蕾み、体内を侵略する指は2本に増やされた。平行して下の男と重なり合った隙間から、割れ目を探られ小さな突起を摘まれる。苦痛と快感、いちどきに両方を与えられてシェリーの頭が大きく揺れた。
 こんな状況で感じたくない。感じたくなどないのに。
 反応する体と理性の間で、心が惑う。
 
 イ・ヤ・ダ……。
 
 それでも、指を抜かれた蕾みに、硬くなったモノがあてがわれる異物感だけが、シェリーに冷酷な現実を告げる。
「力を抜け、そうすれば痛みはあまりないはずだ」
 下から挿したままの男が、シェリーの耳元で小さく囁く。その言葉はシェリーに対する憐憫の情か、少しは慰めになっているのか。
 シェリーの瞳はそれでも何の感情も映さない。虚ろなままだ。
「挿れるぞ」
 興奮しているらしきゲストの男の声が、後ろから響く。それも遠い世界の言葉のようにシェリーには思えた。何を話しているのだろう、この男は。
 蕾みを侵略され体内を抉られる瞬間に、シェリーの背と顎は大きく跳ねて仰け反った。細く白い首が美しく伸び、口元からはくぐもった声が漏れた。
 スカーフのいましめは有効だった。猿轡がなければ、シェリーはきっと咆哮をあげていただろう。
 嵐に翻弄される。
 容赦ないゲストの男の抜き差しに、身体の中を掻きまわされる。内臓がひっくり返されるような衝撃を感じながら、シェリーは薄茶色の髪の毛を妖しく揺らしながら耐えた。
 下からは体奥を突き破るように、深く埋め込まれる。
 眉間に刻まれる皺、苦痛を訴える顔。その姿がより男たちの嗜虐心をそそっている事を、シェリー自身は知らない。

 コ・ロ・シ・テ・ヤ・リ・タ・イ。

 殺したい、こいつらすべて。いや組織も壊滅してしまえばいい。いつかきっと……。そして明美と二人、平和に暮らすのだ。いつまでも。
「声が聞きたい。猿轡をはずせ」
 シェリーの想いを中断するように、ゲストの男の声が耳に届いた。細身の男の手でスカーフが解かれる。
「ぅぐっ、げほっ……ケ、ケダモノッ」
 ゲストの男の耳には届かないほどわずかな声音で、シェリーは呟いた。
「そうか、前後の穴を一緒に犯されるのがケダモノか。じゃあ、これならどうだ?」
 スカーフを解いた男は、シェリーの柔らかな髪を掴んで顔を上げさせ、そしてそのまま息遣いも荒く喘いでいる口を犯した。
「ちゃんと舌も使えよ」
 今すぐ噛みちぎってやりたい、そんな衝動がシェリーの頭をかすめる。そして次に明美の顔が脳裏をよぎる。

 これでいいんだ、このままで。
 もう何も考えられない。
 三人の男たちの息遣いだけが聞こえる世界。ここは、どこだ?
 意味もなく動かされる舌。性器も、そうでないところも、すべて蹂躪される。
 ああ、そうか。間違っていた。ケダモノはこの男たちなんかじゃない。

 ケダモノ ハ ワタシ ダ ……。

 内臓を抉られるような抽送は、いつの間にか止んでいた。シェリーの口の中で男が弾けた。精液とも涎とも区別のつかぬものを、唇の端から垂らしながら、シェリーは意識を失った。

 BLACK OUT



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