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 剃毛



 シャワーを浴び終わって、タオルを使いながら、小さく溜息をついた。気分をすっきりさせようと思ってシャワーを浴びたのに、体のどこかが火照りをおびているような気がする。いまは抱かれたい時期なのだ、たぶん。
 男はめずらしく長期の出張で部屋を空けている。戻ってくるまで、あと3日。虚ろな気分をかかえたまま、洗面所の鏡に自分の裸身をうつす。確認するように、顔からだんだんと視線は下へ。臍のすこし下、本来なら繁みがこんもりとしている筈のところ、恥丘には薄っすらとした翳りしかなく、ほんのりと割れ目が透けて見えていた。
 成熟した曲線を描く上半身から腰へのライン、そこに思春期の少女の恥丘があるようなアンバランス。気恥ずかしさに、そっと手の平で恥丘を覆い隠してみる。繁みに覆われていないここは、こんなにも柔らかで頼りない感触をしているのか。



 数日前、はやめに帰宅した男に後ろから抱きすくめられた。
「なぁ……あそこの毛、剃ってみないか?」
 いきなり問いかけられて私は逡巡した。興味は、ある。でも剃ったあと、生えかけの時はチクチクすると言うし。
「どうする? 今やってみる? それともまた今度?」
 かさねて聞きながら、シャツの上から胸をやさしく撫でる。その感覚にとろけそうになる。
「……どうしよう。あの……」
「剃ってください、って言ってみなよ」
 敏感に尖りはじめた乳首を手の平で転がしながら、すこし強い口調で耳元にささやく。
 びくん。普段の自分から違う自分に切り替わる瞬間。そのスイッチは、快感や言葉、男の表情や視線だったりする。
「……剃って……ください」
 じゅんッ。自分が呟いた言葉で、私の中のなにかが弾けた。ストンと頭に霞がかかったようになる。眩暈にも似た感覚。これから起こるかもしれない光景を想像して、すでに濡れているのだ。
 そしておぼつかない足取りで、ゆっくりとバスルームにむかった。

 男より一足早くシャワーを使う。浴び終わったころ、男は手にハサミと髭そり用の使い捨てカミソリを持って入ってきた。
「ハサミも使うの?」
「いきなり剃ったら、カミソリが即、いかれると思う」
 言いながら、シャワーで濡れた繁みを手でなでまわす。
「さて、始めるか」
 その言葉に こっくりと頷いて、浴槽に腰をかけ、ゆっくりと足を広げていった。何度も肌を重ねて慣れ親しんだ男の前なのに、なぜか気恥ずかしい。男は裸のまま胡座をかき、私が足を広げている目の前に、どっかりと座り込んだ。
 ハサミを取り上げて、ショキ ショキ。男は私の陰毛を、少しずつカットしていく。静かな空間にハサミの音だけが響く。
「なんだか床屋さんみたいだね」
 小さな声でそう囁いても、男は無言のまま作業に没頭しているように見える。冷たいハサミが肌にふれる感触。眼の前で視姦されている効果は凄まじい。緊張と恥ずかしさのために内腿はわずかに震え、背筋にゾクッとした感覚が走る。たまらなくなって、私は男から視線を外した。
 それから、肌が透けて見えるほど繁みの薄くなった恥丘にも、ひっそりと濡れている秘所にも、まんべんなく泡立てた石鹸が塗られていく。すっかり毛が薄くなってしまった恥丘を、優しくなでまわされる感触。
 びくん。やはり、いつもより何倍も敏感で感じやすくなっている。
「これからは動いたらダメだぞ。でも もうびしょ濡れなんだよな」
 そんな風に言われても、感じてしまうのを抑えることができない。カミソリの当てられる音がする。意外にも冷静に、男は作業を続けていく。私もちょっとずつ、そんな静かな時間に慣れていく。
 途中まで剃り終わって、その成果を見るように、シャワーのお湯をかける。
「けっこう時間がかかるものね」
「そうだな、ここから先はホントに動くなよ」
「うん」
 より敏感な部分を剃るために、男はふたたび石鹸を泡立たせはじめ、そして私はすべてを任せるように、もっと大きく男の前に足を広げた。まるで愛撫のようなカミソリのひと剃りひと剃りを受け入れて、感じて動いてしまいそうになる体を必死で大人しくさせる。
 横の鏡には、あられもない格好で足を開いている女と、そこに張り付くように、顔を寄せている男がうつっている。少し滑稽な、それでいて猥雑な光景。
「さぁ、おしまいだ」
 暖かいシャワーのお湯をかけられて、やっと終わりになった。湯を少し熱く感じるのは、陰毛がなくなって より敏感になってしまったせいか。
 そしてやっと足を閉じることができる。
「ほら、みてごらん?」
 鏡のほうをまっすぐ向かされると、はっきりと見てとれる割れ目に、おかしな落ち着きのなさを覚える。
「もう一度シャワーを浴びて、暖まってから出ておいで」
 そう告げると、男は一足先にバスルームを出た。


 部屋に戻って男に寄り添い、こちらからキスを仕掛ける。
「どうしたんだよ?」
「ん? なんとなく……」
 探りあうように絡まる舌、甘く感じる唾液。下唇を強く吸われて頭の芯が痺れそうになる。そして男は体を入れ替えて、上にのしかかってきた。
「……はんッ……」
 足の間に、男の体が割って入る。むきだしの下腹部が、相手の体温をじかに感じとる。
「どうした? 感じやすくなってる?」
「……うん、そう……」
「洗い流しても、また湧き出てきてるよ、ここ」
「んぁッ……んんッ……!」
 乳首を舌でやさしく転がされて、震えるほどの快感が走る。その隙にぬぷりと指が差しこまれ、濡れてあふれはじめた秘所に到達した。
 ダメだ。今日は何だかおかしい。肌をあわせて体を擦りあわせるだけで、いつもと違う衝撃がある。割れ目の中のクリトリスは、押しつぶされて悲鳴をあげそうだ。それほど感覚がダイレクトになっている。今まで恥丘にあった繁みは、敏感な部分を保護し、覆い隠していたのだろうか。
 ゆっくりゆっくり、胸やわき腹に、唇や手の平で愛撫を続ける男に、焦れたような気持ちになって足がちょっとずつ暴れてしまう。
「んぁああぁ……」
指が太ももの付け根に触れた時、たまらなくなって吐息とともに大きな喘ぎ声をもらした。
「足がモジモジしてる。もう我慢ができないの?」
 笑いを含んで男がたずねる。
「ぁふッ……あぁッ……!」
 内ももの弱い部分を、指圧のように圧迫されて、何も言葉にならない。いつの間にか私の足は、男の足に纏わりつくように絡みついていた。
 片手でスルリと割れ目が下から撫で上げられる。そのひと撫でで、興奮で膨らみきったクリトリスへの愛撫は十二分だった。
「……ぅふッ……」
 喘ぐ声と一緒に、体がビクンと跳ねる。足は挿入をせがむようにますます強く絡みつき、焦らしに耐え切れないように首を振る。
 待ちきれない。密着した下腹部には、男のモノがびくんっと脈打っている。男は無言のまま私の足首をグッと持ち上げると、腰の下に枕を差し入れ突き刺してきた。
「はぁぁぁん……んッ、んッ……ふぅッ……」
 内襞がえぐられ、こすりあげられる。狂おしいほど待ち望んでいた感触。熱く満たされて奥まで到達する。
「あぁ、だめ……あたる、奥にあたるの……ぁんんんッ!」
 深い角度の挿入と、快感のあまり男を迎え入れるように降りてくる子宮口。男は無言で、深い抜き差しと奥まで押しつけて揺するような行為を繰り返す。このままではすぐに昇りつめてしまう。
「はッ……ぁあッ……!!」

 バシンッ!!

 今まで味わっていた蕩けるような感覚とは、まったく異質な衝撃が全身を走った。昇りつめていく寸前で、男の手で私の尻に激しい打擲が与えられたのだ。
「あ……どうして?」
 不可解な想いで目を見開いて、男の顔を見つめる。

 バシッ、バシンッ!

「はぅッ! イヤ……なんで、あぅッ……!」
 より激しいスパンキングが続く。これはお仕置きなのか、それともご褒美なのか。
 スパンクは打たれてすぐは痛みとして、それから痺れるような感覚が広がり、むず痒いような、なんともいえない快感となって、全身を駆けめぐる。続けて打擲されることは、痺れて快感に変わる前に、立て続けに苦痛を与えられる結果となる。
「だめ……ホントに痛い……ああッ……」
 続けてまた二打。衝撃のあまり体がびくんと跳ねあがる。
「お前は感じてる。いちだんと濡れてるじゃないか」
 男の言葉に自分の耳を疑った。
 え? 濡れてる? こんなに苦痛を感じているのに。
 そしてまた続けて二打。そういえば今まで挿入中に打擲された事はなかった。ああ、そう。確かにそうだ。私はいっそう感じている。ひりつくような痛み、ジンジンとして、もう私の尻はスパンクで赤くなっている。
「自分で触ってみればわかる。ほら」
 男の手に導かれ蕩けている部分に触れてみる。いや、触れなくても私にはわかっていた。スパンクに興奮し、そこがおびただしいほど濡れていることに。打たれた痛みが熱い刻印に変わり、からだ全体が切なく熱い疼きに満ちていく。
 男にはよく分かっていた筈だ。スパンクの1打ごとに愛液があふれ、中では締めつけるように、内襞が絡みついていたのだから。

 パンッ! パン、パンッ!

「はぁうッ!」
 私の苦悶の表情を、逃さず捉えようとしている男の眼。苦しさで身をよじるたび、男の顔も紅潮していく。何度 打たれたのか、数えていられない。わからなくなる。痺れて蕩けて、昇りつめていく。
「今日は中でイキたい。いいか?」
「……あ、ぬかないで、あたしも……いっしょにイキたい……」
 ようやくスパンクはやんで、爛れたように蕩けた場所をを、抉るような激しい抽送。そして強く乳首がつまみあげられる。
「ぁああぁッ……はぁぁんッ……!!」
 のけぞりながら高みに昇っていく。どろどろに2人で溶けあって、痛みも痺れもすべてそのひとときの為に。荒い息をつきながら、男も私も高みに打ち上げられた。
 汗ばむ体を抱きしめあいながら、たがいに呼吸を整える。ようやっと体を離した男が、ゆらりと立ち上がる。少し遅れて私も立ち上がると、男の放った精がとろりと足の間を伝わっていく。バスルームで軽くキスを交し、先に男は部屋に戻っていった。
 体を洗い流しながら、ふと鏡にむかう。立て続けにスパンクを受けた尻は赤く染まり、対照的に幼げに見える無毛の恥丘は、照明にてらされて白く光ってみえる。
 さっきまでの興奮を思い出して、余韻を噛みしめるように尻にそっと手を触れる。
 ほんのりとひりつく感覚が残っていた。



 無毛だった場所は、今では少しだけ翳りを取り戻し、もうとっくに、尻の赤味は消えてしまっている。想いを振り切るように、部屋に戻り下着を取りだし身にまとう。
 誰に見せるわけじゃないのに。クスリと一人笑いが洩れる。身につけたのは、白いレースのショーツとブラ。胸元や恥丘、股間の部分は裏打ちの布がついているが、後ろの部分はレース地のままなので、尻の双丘は割れ目までがくっきりと見てとれる。
 衣服に袖を通そうとして、手をとめた。そのまま そっとベッドに横たわる。ほのかに残された今はいない人の香り。やるせない想いに負けて、ほんの少し自分に悪戯したい、そんな気分だった。

 このところ自慰を行う回数は、めっきりと減っていた。男が私の「被虐」の気質に気づいてから、精神的興奮は ほぼ満たされているのかもしれない。でも今日は特別。そんな言い訳をしながら、そっとブラの中に手を差し入れた。
 ゆっくりと指で乳首を転がしたり、そっと摘まんだりする。押し寄せる柔らかな快感に、体が痺れていく。時にはやさしく、時には強く胸に刺激を与え続ける。股間に手を這わせ、クリトリスをかるく刺激して、溢れる場所にたどりつく。
 もうすっかり濡れている。男とした行為を思い出しながら、ヒップを撫でまわす。男はこうやって愛しむように、撫でまわすのが好きだ。そしていつもヒップを覆っているショーツに手を伸ばすと、ぐいっとお尻を剥き出しにするように、ショーツを双丘の間に食い込ませる。
「くッ……」
 食いこんだショーツが、アヌスや膣口を擦り上げるように刺激する。そして……。

 バシッ!

 いま私はいったい何をした?
 呆然として自分の手の平を眺める。自分の尻を打擲した痺れが、まだそこに残っていた。ベッドに横たわり、自らスパンクをほどこす。こんな滑稽な光景はあるまい。醒めた頭でそう考える。でも手の平はさっきの刺激を求めるように、もう一度ひらりと翻った。
 ビシッ、バシンッ!
 じゅわっと溢れでて、再び股間を熱く濡らす感触がある。
「はぁんッ……」
 たまらなくなって、思わず声が洩れる。打擲しているのも私、そしてそのひりつく痛みを受けているのも私。自分でする行為だから、どことなく手加減してしまう。
 もっと……貪欲な被虐の気持ちが頭をもたげる。思いきって、再び手を振り上げる。そしてもう3打。
「……くぅん……」
 苦痛を受け止め、しびれる感覚が広がっていくその刹那、スパンクする自分と打たれている自分が、ひとつに溶けて混じりあった。手の平も尻も、両方ともビリビリと痺れている。身体中に広がっていく、焼けつくような切なさ。自然と打擲する手は止まり、腰がうごめき、指で乳首をより強く摘みあげる。
 興奮と快感の渦に巻き込まれて、もう止まらない。両方の足はきつく閉じられ、膣口からからだの芯に向かって、らせんのように快感が突き進んでいく。乳房をわしづかみにしながら、駆け上がるように私は絶頂に達した。

 荒々しい絶頂感に満たされて、しばらくはまともに呼吸する事ができなかった。息を整えると、さっきまで体にあった火照りが、まるで憑き物がおちたように消え去っているのに気づく。嵐のようなひとときが過ぎ去って、静寂の時間。
 もう一度シャワーを浴びて、着替えをしなければ。ぐっしょりと濡れてしまって、下着もひどい状態になっている。でも少しだけ余韻を味わうように、そのままで横たわっていたい。
 男がこの部屋に戻ってくるまで、あと3日。



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