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 緊縛



 緊縛の話が出たのはいつ頃のことだったか。冗談めかしたその話が、実現するとは思っていなかった。軽くシャツやタイツで手足を縛って、ソフトSMの経験ならある。縄を使ったり、体そのものを縛られたりすることは、いまだなかったのだ。
「なぁ、本当に縛られたいんだよな?」
「え? う、うん……」
 セックス中ではなくて、素のときに急に聞かれると、さすがに言葉に詰まる。
「どうやって縛ったらいいんだよ」
「どうやってって?」
「だって分からんだろう。ビデオでも見て研究するか?」
「研究ってあなたが?」
「そりゃそう。縛るのは俺だから。」
 たしかに私が研究しても何にもならない。自縛という手法があるのも知ってはいるが。じゃあお手並み拝見だね。その時はそう思って微笑んだ。

「さて、じゃあ やってみるか」
 いきなりそう言われて私は息を呑んだ。いつの間に? ベッドの脇には縄が準備されていた。男の口調は軽やかで、何かの実験でもするようだ。全身をひとしきり愛撫され、裸になったそのあとで。
「これ、すごく長いよ」
 束になった縄を横目でみながら、おそるおそる呟く。今日はどんな風にしようとしているのだろう。
「あれから研究したの?」
「してない。してないけどやってみる。」
 自信満々な態度、大丈夫なんだろうか、少しの不安が胸をよぎる。
「ほら、こうやって……」
 横たわっている私の胸に、するすると手際よく縄がかけられていく。両の乳房を上下から挟みこむように、縄がまわされる。私の体をオモチャのように、右へ左へと転がしながら。それでも抵抗せずに、されるがままになっている。いや、されるがままになるのを、私は楽しんでいるのだ。
キュッと胸がきつめに縛り上げられたとき、ふいに股間に熱いものを感じた。胸を強く締め付けられているので、息苦しいような感じもある。自分の体にゆっくり縄がかけられる。それだけで興奮して、すでに感じて濡れ始めていたのだ。
 胸の鼓動が高鳴り、ますます息苦しさが増す。乳房のまわりを緊縛した縄は、首の後ろを通り、それから。
「ほら、こうだ」
 縄がもう充分にしっとりと濡れている股間を通っていく。尻の双丘の谷間も、濡れた膣のあたりも、それから敏感なクリトリスも、こすれて圧迫されて少し痛い。でも足を広げられ、縄をかけられているその状態に、不思議と欲情する。体に縄が触れるたび、感じて濡れそぼる。
「ああ……あ……」
「好きなんだろ? こういうの。堪らなそうな顔をしてる」
「少し痛い……痛くしないで、お願い」
「だって自分から縛られたいって言ったんじゃないか。今更なに言ってんだよ。」
 男は広げられ縄が食い込んでいる股の間を面白そうに眺め、縄のすき間から敏感な部分に指を入れて弄りはじめる。
「それにほら、こんなに溢れて感じてるのに」
 食いこんだ縄のすき間から、指をいれて溢れる私の液をすくいとる。
「もうとろけてるくせに」
「言わないで。おかしくなっちゃう……」
 腹のあたりにかかっている縄を、男がぐいっと上に引っ張りあげる。食いこみがきつくなり、思わずうめき声が漏れてしまう。
「うぅ、痛い。だめ……許して……ほどいて……」
「だめだ。許さない」
 続いて片方の足首に手荒く縄がまかれ、そしてもう片方にも。
「ほら、こんな風にもできる。いい眺めだ」
 足首を縛った縄が、上に高く掲げられる。縄の食い込んだ股間が露わになる。縄の一部を箪笥の取っ手にひっかけ、ちょうど両足首が引っ張り上げられて、仰向けのまま両足をあげて大きく開かされている格好になる。最後に乳房の少し上で、両手首を拘束して、これで「緊縛」は終了らしい。
「もう逃げられないよ。好きなように弄り放題だ」
 そう言いながら、股間の縄を腹の上で片方の手で持ち上げて食いこませ、もう一方の手は、乳首をきつく摘まみあげる。
「はああぁぁぁ………」
 声とも溜息ともつかない音が、口から洩れる。足の自由を奪われて、高く掲げられている。手の自由もきかない。興奮と息苦しさが、ますます強まる。足首の縄の部分が、引っ張りあげられているせいか、すこし擦れて痛い。
 私のいやらしい液体は、とっくに溢れ出て股間の縄に沁みこんでいるはずだ。足首の痛みに耐えながら、思わず哀願の口調になった。
「だめ、なの……ほんとうに。ヘンになっちゃうの。おかしいの、早くほどいて」
 男はやっと私の言葉を聞き入れたようだ。黙って縄をほどきはじめる。
「足はほんとに痛かった。もっときつく縛らないと、擦れて痛いのかも」
 そんな感想を言ってみる。
「でもわかったよ。これでお前が何を好きか」
「え?」
 縄のいましめから解放した後に、男はそんなことを言う。
「たぶんな、『拘束』がいいんだ、お前には」
 そういいながら、男は縄を手に取り、その匂いを嗅ぐ。
「お前のあそこの匂いが沁みこんでるな」
その言葉を聞いて顔が熱くなる。恥ずかしさが蘇る。
「起きてごらん?」
 そう言われて、私はベッドの上に正座の姿勢になる。
「どうするの?」
 私の問いかけに答えずに、また乳房の周りに縄をかけ始める。
「もういいよ、やめてよ。今日はもう……」
「やめない。もっと楽しむんだ」
 縄はまた乳房を挟むようにかけ回され、続いて両手を背中のところで拘束する。
「あ……」
「こういうの好きだろ?」
 微笑みながら、男は私の前に仁王立ちになった。


 眼の前の光景に釘付けになる。すこし膝立ちになった私の口元に、突きだされた男のもの。蕩けるような顔になって吸い寄せられるように近づいた私の唇を、男は両手で頭ごと抱えよせた。
「はう……う……」
 言葉をだす暇もない。愛しむように髪の毛を撫でながら、それでも男の両手はしっかりと私の頭を抱えている。なすすべもなく咥えさせられている。そんな状況が、自分の中の興奮を呼びさます。手の使えないフェラチオはとても苦しい。咥えたモノにゆっくりと舌を絡めながら、呻き声をあげる。
「んぐ……うぅ……」
 男の手によって、フェラを手伝うように前後に揺らされる私の顔。口はいま犯されて性器そのものになっている。頭をつかむ男の手に少し力が入る。興奮しているのだ。
 小さな微かな喘ぎ声が頭上から聞こえる。男の興奮を感じ取って、私の体が熱くなる。歓びに震える。
 でもやはり苦しい。喉の奥のほうまで押しつけられて、咥えたものを吐き出したいような苦しさが増す。もっと喜ばせたい。耐えなければ。
「あぐ……ああッ……」
 苦しさに耐え切れずに、自分から逃げるように唇を離した。
「ごめんなさい、苦しくて。ほんとに、ごめんなさい……」
 荒い息をつきながら、思わずベッドに腰を落とした。眼の前の男のものは一段とそそり勃っている。
「うつぶせになれ」
「あ……」
「いいから後ろを向いて」
 後ろから貫こうというのだ。このままでは手がつけない。後ろ手に緊縛されたままでは四つん這いの体勢がとれない。
「ほら早く」
 男が私の肩を押す。このまま前に倒されたら、頭からベッドに突っ込んで、息ができなくなってしまう。ベッドの向こうに椅子がひとつ置いてある。膝立ちで移動して、頭を椅子の上に乗せ、お尻を男に向けた。
「どうされたい?」
「後ろからほしい……」
「どんな風にされたいんだ? ちゃんとお願いしないと」
「ビショビショの所に、奥までたくさんほしい……だめ、もう我慢できません……」
 焦れたような気持ちになって、お尻をもじもじとさせ突き出す。背後からの男の視線を痛いほど感じる。こんな姿を、ねめつけるような目で、見つめているに違いない。そう思ったら、再びとろとろに濡れていく。
「そうか。そんなに欲しいか」
 尻を大きく撫でまわし、腰をつかむようにしながら、男はその光景を楽しんでいる。そして今度は焦らすことなく、一気に奥まで貫かれた。
「あぁんッ……はあぁッ……」
 思いどおりに中を満たされて、思わず声が上がる。
「こんな姿でされるのが好きなんだ。
 ほら、出し入れするたびに、あそこの音がする。聞こえるか?」
「ああッ……聞こえます。……なんて、いやらしい……」
「そうだ、いやらしくて淫乱なんだ、お前はこんなに」
 背中の上に覆い被さるようにして、男が耳元でささやく。耳元に熱い吐息をかけられる快感と、言葉による屈辱。
「……言わないで……いや……」
 体を緊縛され手の自由を奪われ、感じる中を掻きまわされて、言葉で心を犯される。
背筋を下から這いのぼる快感。しとどに濡れた太腿のあいだから、男の指がしたたる液体をまたすくいとる。
「凄い濡れ方だな。もっとよくしてやる」
 その指でゆっくりとアヌスを撫でまわす。
「ここに指が欲しいか?」
 じわじわと指を押し付けながら、私の答えを促す。
「……んんッ……」
「答えないと抜くよ」
「あ……ください。後ろにも指が……ほしいです……」
 最初はゆっくりと、そしてずぶっとアヌスに入れられる指。ぞくっとする快感で、気が遠くなりそうになる。
「はぅんッ……!」
「どこが気持ちいい? 言ってみろよ」
 そう言いながらもう片方の手は前に回って、充血しきって膨らんでいるクリトリスを捏ねまわす。
「あぁッ!……わかんない。きもちいいの、全部いいのぉぉ………」
 3ヵ所を同時に責められて、理性など消し飛んでしまう。それぞれの快感を別々に受けとめ、一緒になって大きな渦になる。拘束され貫かれて、いたぶられている自分の姿も何もかも全部 見えなくなって、何度も何度もおそってくる快感の波のとりこになる。
「おかしいの、ヘンなの……どうかなっちゃう………はぁあっ……!」
 男の突き入れるリズムが早まる。それに合わせて、自分から腰を動かす。絶頂の予感が近い。でもどこかで抗うように、椅子にのせた頭だけが小さくイヤイヤをする。
「いいんだ、もっとおかしくなれ!」」
 あつい。体が燃えてしまう。男の言葉に導かれるように、おびただしい熱に溶かされるように、言葉にならない声を大きくあげて私はのぼりつめた。
 快感の余韻で、少し震えている私の臀部の上に、男が射精する。力尽きたように男の体がゆっくりと、私の背中にもたれかかる。貪りあった余韻に浸って、しばらくのあいだ不自然な体勢のまま2人で体を重ねていた。

 ようやく男が起き上がって、思い出したように縄を解いていく。
「さぁ、シャワーを浴びないと」
 そう言って、ポンと私のお尻を叩く。
「動けないよ……」
 うつ伏せになって、私はベッドの上にへたりこんだ。
「縛られるの、気に入った? また今度やってみるか?」
「……うん」
「早く来いよ。そのまんまだと風邪ひくぞ」
 男は軽くキスすると、立ち上がってバスルームに向かった。見ると手首にうっすらと、拘束の縄の痕がついている。この痕もすぐに消えてしまうのだろう、残念だけど。
 でもまた、あの興奮がほしくなるに違いない。強ばった体をほぐすように、私はゆっくりと立ち上がった。




Back  Next [剃毛]に続く




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