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 シャッター



―― 2 ――



 秀行の誕生日。いつもどおり起きて、いつもどおり会社に行った。普段どおりの日常。でもなんだか仕事が手につかない。周り中に迷惑をかけながら、上の空で一日を過ごした。

 帰宅して、ご飯食べて、お風呂に入る。いつもより念入りにゆっくりと。お風呂からあがって、髪の毛を整える。ほんの少しだけメイクをして、カメラを手にとった。
 秀行が感じる写真、好きなポーズは想像がついた。ベッドの脇のテーブルに、カメラをセットしてアングルを決める。タイマーをセットして、その角度に入るように、すばやくベッドの上に移動して、ポーズを作る。
 なんだか笑ってしまう。お風呂上りに裸のまま、こんなことをして。シャッターが下りるまでじっと待っている時間。恥ずかしいというより、滑稽だわ、これ。
 フラッシュが光ってシャッターが下りる。その瞬間、ちょっとドキリとした。背中が『何か』に敏感に反応した。
 できあがりを見てみる。ちょっと私の予想と違う。位置をほんの少しずらして、もう一度撮り直す。今度はどうだろう? 秀行が好きな、お尻を突き出した四つん這いのポーズ。お尻の丸みが強調して見えるように、足元側から撮る。でも、恥ずかしい部分は写らないように。
 シャッターが落ちるまでの間は、意外と長い。2回目は少し余裕をもって、うしろをふりむく。他に誰もいない部屋の中で、全裸の私を見つめているレンズ。私だけを見ている。
 シャッターチャンスを告げる赤い点滅、その、またたきが次第に早くなる。ドキドキして呼吸が荒くなる。フラッシュが光った。なんだろう、この感覚。

 もう一度カメラを覗いて、少しだけ自分でも気に入らないので、撮り直すことにする。カメラをセットする時、なんとなく頬が染まる。これはただのカメラなのに、他のものにいきなり変わってしまったみたい。
 元の位置に戻って……その間にも、誰かに見られているような気がする。背中に感じる視線、舐め回すような眼。カメラに向かってお尻を向ける。いま私はなんて恥ずかしいことをしてるんだろう。

『とても恥ずかしい格好だね。
 もっと僕に良く見えるようにお尻を突き出して』

 秀行の声が聞こえるような気がした。見られている……フラッシュの光は、背中に突き刺さる秀行の視線。すごくおかしな気分。
 カメラを手にとって、また確認。
 うん、これならイイ感じかな。ベッドの上で一息つく。
 私さっき、撮りながら感じていた。肩先をきゅっと掴む。まだ恥ずかしさが残っている。あぁ、違う。まだ見られているような気がするんだ。

『シャッター音を、僕の視線だと思って』

 そっと胸に触れてみる。胸から全身に震えが走って、すごく敏感になっている。きっとこれのせいだ。そう思ってカメラを見つめる。おそるおそる、足の間に手を伸ばす。
 指を差し入れると、そこはもう大洪水だった。自分でもびっくりするくらい溢れてる。

『裕未が僕に見られている気持ちになって、感じている顔なんて撮ってくれたら嬉しい』

 やられちゃったよ、私。もう、感じまくりだ。
 溜息をつきながら、指でツンと硬くなっている乳首をはじく。もう片方の手で、ベッドに置いてあるカメラを手に取った。
 感じている時、自分ではどんな顔してるかなんて、わからない。パシャリ。
 もうアングルもフレームも構わずに、シャッターだけを押し続ける。ファインダー越しに見つめられている感覚。
 もう片方の手は、忙しく私の体の上を這いまわる。胸を撫でまわし、てっぺんの乳首を指先で転がす。そっと優しく、それからクリリと強く。
 フラッシュの光を浴びながら、声も出さずに自分のからだに悪戯する。

『ふーん、いつもひとりでそんなことしてるんだ。いやらしいね、裕未』

 そんなことない、今日は特別なの。だって秀行に見られて感じちゃったから。心の中で言い訳しながら、そろりと指先が下腹部の先まで伸びる。
 しっとりと湿った繁みをかきわけて、もうトロトロになっている部分にたどりつく。自分で触れて濡れているって気づくとき、その瞬間がいつもいちばん恥ずかしい。
 ぷっくりと膨れたクリトリスを、指でつるんと撫であげる。体がびくんと震えて、頭の芯まで気持ち良さが走った。
 無意識のうちに指がシャッターを押す。パシャリ。私のこんな姿を、まだ秀行には見せたことがない。本当は見せたいんだろうか。それとも見られたくないのかな。
 だんだん、どちらだかわからなくなる。
 シャッター音と、私がたてている湿った音と、喘ぎ声とが重なり合って。片手だけで触れているのが、もどかしくなってきて、カメラが手からぽろりと落ちる。指を自分の液体でぐしょぐしょに濡らしながら、もう片方の手が、脇腹から胸元、肩先へと走りぬける。
 イヤだ、イッちゃいそう。

『気持ちイイのに、どうしてイキそうになると、
 裕未はいつも「イヤ」って言うんだろう?』

 耳元で秀行の声が聞こえる気がした。だって気持ち良すぎて、怖いくらいなんだもの。

『イキそうなんだね、裕未。いいよ、見ててあげるから。イッちゃいなよ、ほら』

 ずるり。指がクリトリスの上を強く滑った。昂ぶっている気持ちを後押しする、頭の中で響く秀行の声。コップにいっぱいになった水が、あふれてこぼれる瞬間の、最後のひと触れ。
「は……んっ……いやぁ。……見ないで!」
 首を振ってイヤイヤをしながら、カメラのそばにいた『秀行』に、私はそう叫んでいた。



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