彼の事情 ―― 6 ―― シャワーを扱いながら、裕未が反応する新しいポイントに、僕は気づき始めていた。さっき達してしまった膨れたクリトリスの下側あたり、そしてその他にもう1箇所。裕未自身も気づいていないかもしれないそこを、再び嬲りはじめる。さっき僕が始めて口づけた窄まりへと水流で刺激を与える。 近づけたり離したりして飛沫に強弱をつけ、時に前後に擦る。胸に吸いついて乳首を口に含んで転がすと、裕未の頭は大きく揺れた。 「やっぱり……裕未はここも好きなんだ。ね?」 「ちがっ……! 違う、ちがう……」 指摘すると否定する言葉とは裏腹に、眉間に皺を寄せ大きく喘いでいる。からりと音を立てて床に落ちたバレッタを裕未も僕も拾わずに、感じる事と弄る事に没頭していた。 「いやっ、やめて、だめなの……あぁあ……」 裕未の新たな感覚を引き出したことで、僕は興奮していた。抗えない快感に身を任せて変わっていく姿に、隠されていた裕未の心を手に入れたような錯覚を覚えるのだ。 柔らかな指が僕の屹立していたモノに巻きついた。2、3度しごくような動きをする。指先がカリ首を愛撫し、鈴口をそっと触れて刺激する。キュッキュと棹が包まれる優しい感触、裕未の顔は横をむいて喘いだままだけれど、手の平で表された欲望だけが裕未の切迫した想いを伝える。 ――欲しい、ほしいの、待ちきれない……来て!! だめだ、まだだよ。あげられない。裕未の感じる部分がもっと素直になって、もっと露わになってから、それから。 僕の昂ぶって固くなった先端が濡れて光っているのは、水飛沫を浴びたためか、それとも……。 「感じているね、裕未。ここでも」 ダメ押しのように耳元で訊ねる。 「ちがっ、やぁ……恥ずかしいの、やめて……」 かぶりを振ると肩先に広がった髪が濡れて首筋にはりつく。それさえも今はひどく淫らに見えて。 「裕未は何も言わなくていい。頷くだけで。恥ずかしくないよ、さあ答えて。ココが気持ちいい。そうだね?」 水飛沫のあたっている密やかな窄まりを、指先で円を描くように触れながら囁く。裕未は潤んだ瞳をしてコクンと頷いた。 ゆっくりとシャワーのコックを閉めて、バスルームに満ちていた水音がやむ。両腕が首に巻きついて、裕未の舌が僕の口唇を犯した。 もう言葉はいらないような気がした。離れていることで時おり感じる焦れたような不安が、止まらない昂ぶりとなって抱き合った裕未の下腹部を刺激する。濡れて湿った体を互いの手がまさぐりあう。 何度も、何度でも確かめて繋がりたい。今を覚えておきたい。 裕未の体を抱えて小さな椅子に腰掛ける。目だけで、いいね? と訊ねる。顔を赤らめ俯きながら裕未が膝の上にそっと腰をおろす。足を広げて僕に向かって肉の秘裂を押しつけてくる。棹が柔らかい襞に挟まれる暖かい感触がある。覆いかぶさるように唇をいま一度求められて、裕未の臀部が持ち上がり、そしてゆっくりと沈んだ。 「くっ……!」 したたる液をシャワーで洗い流されて、滑らかさを欠いているのか。裕未の入り口はほんの少し襞を内側に巻き込むようになって、小さく苦痛のうめきを上げる。 「ごめん、少しキツイ?」 「だいじょうぶ、だから。気に、しないで……んっ」 体が何度も小刻みに上下する。先端が咥えられて、また離れ、ちょっとずつ先へと侵入していく。せわしい腰の動きが裕未の疼きを教えてくれる。 「そんなふうに動いたら、ヤラシイ。裕未」 そう指摘すると、半ばまで入りこんで中の溢れる部分に触れて動きが止まった。目の前にある乳首に吸いつきねぶる。 「だって……もう、悪戯しちゃダメったら……ひゃんっ!」 裕未の双尻を両手で引き寄せて深く貫く。熱い雫が繋がった部分からこぼれ落ちる。 「熱い、裕未のなか。すごく、あつい……」 溜息のような声だけが浴室の中を満たしていた。 ゆっくりと裕未が腰を上下させる。くぐもった水音がした。その動きを背中を抱きしめて止める。 「動かないで、このままでいよう」 「どうして?」 動いたほうが秀行は気持ちいいでしょう? 裕未の顔はそう言っていた。 それでも抱き合ったままじっとしていた。繋がった部分に意識が集中して、感覚が鋭敏になる。柔襞が蠢いて包みこまれる感じ、別の生き物のように蠕動しぬめる感触、沁みこむ様な熱さ。それに応えて僕の怒張が時に脈打つのも、きっと裕未に伝わっている。 「……あ……動いて、る……」 「裕未の中だって相当いやらしく動いてるけどな。自分では気づかない?」 「え? そんな……あ、あっ……! やぁ……」 慌てているのは、僕がとっさに膝を閉じてしまったから。向かい合っている繋がりが少し浅くなる。それに裕未は焦れている。 「ぁん……もっと……」 もっと奥までちょうだい。そう言う代わりに両足が交差して僕の腰を締めつけた。 わかった。欲しいのは僕も同じだから。膝を開いて、弾力のある臀部を足の間に挟みこみ、裕未の熱く潤む最奥を突き上げた。 「ふわぁっ!!! ん、んんっ……いい、すごく……いいのぉ!」 また軽く膝を閉じて開く、そんな動きを何度も繰り返す。その度に喘ぎが叫びに変わる。蜜がとめどなく溢れて、陰毛もふぐりもしとどに濡らしている。裕未は手足を僕に絡めて体を揺すり、もっと奥へいざなおうとする。額にも胸元にも汗が浮き、クライマックスが近づいていた。 「こんなにえっちだったんだ、知らなかったよ……」 堰を切ったように乱れる姿態、その背を抱きしめ尻肉を掴んで、のけぞる喉に口づける。深く抉るように突き上げると、喘ぎはすすり泣きに変わった。 「いやぁ……いじわるぅ……あぁ、あぁっ……もう、もう……」 身を震わせてすすり泣く姿は、痴態、嬌態というに相応しい。もっと哭いて僕にさらけだしてくれ。抱えている上体をぐらぐらと揺らす。 「ひぃん……はっ、はっ、んぁっ……」 かわいい、いやらしい、いとしい。オレノモノダ、オレノ……。 汗のしぶく胸板をこすりつけ、ひくつく襞を切っ先で擦り上げる。裕未の汗と淫らな蜜の中で僕は溺れていく。 ああそうだ、大事な呪文を忘れていたね。こんな言葉で良ければ何度でも言おう。 「いいよ、見ててあげるから。逝っちゃいなよ、ほら」 「くぅう……すきぃ……ひでゆきぃ……ぁあぁああ!!」 裕未の両足が痛いほど僕を締め上げる。そして中も。灼けるような熱さに総身が侵される。悲鳴をあげる口を唇で塞いで、がくがく震えるその体に、叩きつける様に精を放った。 互いを貪って食べ尽くして、すっかりへとへとになって空腹だった。 切り方がどうだの味付けがヘンだの、あれこれ言いながら一緒に作った遅い夕食をつついて、ビールを飲んだ。少し疲れて眠そうな裕未を、指先で玩んで嬌声をあげさせたり睨みつけられたりして、ビデオを見ながらベッドの上で暫くじゃれあっていた。 裕未の瞼が落ちて寝息を立てるのを確認して、そっと灯りを消した。 明け方、誰かが呼んだような気がして目が覚めた。タンクトップにショーツだけの姿で裕未は膝を丸めて胎児のように眠っている。 忘れ物をもうひとつ思い出して、ベッドから静かに抜け出す。 『こんなのって可愛いよね』 前に雑誌を見ながら裕未が呟いていた、煌めく珠とチェーンのブレスレッド。 同じものではないだろうが、赴任先でふと目が止まって買い求めた。荷物から取り出して、悪戯心で眠っている裕未につけてあげようと思いつく。 穏やかな寝姿、足首に手を伸ばす。そうだ、手首じゃなくて飾るのはここがいい。 外で気の早い烏が一声鳴いた。寝返りを打った裕未の足元に、朝の陽射しが宿る。 薄掛けをひっぱって隣りにもぐりこんだ。裕未の匂いを胸に吸いこんで、もうひと眠りしよう。 『秀行へ 元気にしてますか? そちらは相変わらずの曇り空でしょうか。 今日こちらでは少しだけ雪が降りました。 この冬の初雪です。鳥たち用に残しておいた柿の実にも、雪が積もりました。 クリスマスの予定、上司にさんざん嫌味を言われましたが、 無理やりお休みを取りました。 こんどは私がそちらに行きます。待っててくださいね。 裕未』 Back Next [冬のナルシス] に続く |