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 彼の事情



―― 5 ――



「さあ、 じっとして。お姫様になったつもりで」
 シャワーの湯量を調節しながら、立っている裕未に浴びせる。飛び散る飛沫に目を細めて僕に問いかける。
「なんだか怖いなぁ。また良からぬコトを考えているでしょ」
 もちろん。あれやこれやと考えているけどね。
 ボディソープを泡立て両手をスポンジ代わりにして、まず手の指先から洗っていく。指と指の間も丁寧に。くすくすっと裕未が笑う。腕から肩、首筋へ。バレッタで軽く髪の毛を止め上げただけのうなじが色っぽい。
 背中もマッサージするみたいに撫でまわして、腋の下から脇腹あたりまで。裕未の体が時折ビクッとしたり深呼吸したりする。
 ヒップに手がかかったところで気分を変えて、今度は足の爪先から。ひざまずいて足を洗い上げている様子は、本当にお姫様と奴隷に見えるかもしれない。
 膝から上に手を伸ばすと裕未の膝小僧がキュッと閉じた。
「ほら、ダメだよ、洗えないだろ?」
「だって……」
 裕未が拒んだ原因は、太腿の内側に手を差し入れてすぐにわかった。さっき僕が中に放った精がとろとろと零れだして、裕未の足の間を濡らしていた。ぬるりとするその感触に何とも言えない複雑な感慨がある。かつては僕のものだったのに、今は裕未と混じり合って溢れている。愛しあった証のしずく。
「どうして? 恥ずかしいことなんてないよ」
 僕の視線から逃れるように、裕未は顔をそむけている。太腿の付け根までを泡まみれにしたら、大事なところは後回しで今度は下腹部を洗っていく。おいしいものが目の前にあって、先に食べるか後にするかと聞かれたら、僕は後でゆっくりいただく主義だ。
 ちょっとずつ上のほうへ、胸のふくらみに手がかかった。
「ふぅ……」
 そっと優しく裾野からてっぺんへ、大きく円を描くように洗っていく。裕未の漏らした小さな溜息はだんだん荒い息遣いに変わっていく。
「気持ちいい?」
 立ち上がって裕未の顔を見つめながら反応を楽しむ。訊ねながら耳元に息を吹きかける。手の平のなかで乳房が弾んでカタチを変える。指先で乳首をはじくと、耐え切れないといった風に、裕未が泡だらけの腕で僕の首に抱きついた。
「は、ぁんっ……立っていられなくな、る……」
 ソープの泡にまみれた胸が押し付けられる。すべらかな感触が心地よい。つるつると滑る体をそっと抱きとめて、取り残されたようにそこだけ泡のついていないお尻を洗う。両手で抱えるようにして。
「あ、そこは……」
「隅々まで洗うって言っただろ」
 さっき僕がくちづけた窄まりも、その先の新しい蜜を吐き出しているところも。湯に濡れた繁みも、その奥にそっと隠れている膨らみも。執拗なほど丁寧に、ゆっくりと洗っていく。
「はっ、はぁっ……んふっ!」
 堪えきれないような裕未の喘ぎが聞こえてから、意地悪をするように僕は手を離してシャワーの栓を捻る。物足りなそうに眉を寄せたほんの一瞬の裕未の表情は、はっとするほど切なく見えた。
 少しきつめにシャワーの流量を設定して、ほんのり朱に染まり始めた首筋にかける。泡を洗い流して肌の上を水滴が転がっていく。僕が考えている悪戯はここからだ。
 シャワーの位置と角度を調整しながら、少しずつ裕未の胸を責める。少し離してふくらみ全体に、今度は近づけて上下に。斜め上から、それとも下から? どんな風に水流がかかったら裕未は感じてくれるだろう。それともこんなのは面白くないだろうか。
「あっ……やっ!」
 反応があったのは乳首の尖りの辺りに、下から上へシャワーヘッドを動かした時だった。もっと近づけて、また離して。シャワーを浴びているだけなのに、逃げるように裕未は壁際に追い詰められていく。

――僕が何も触れていないのにシャワーだけで感じてしまって、裕未はとてもいやらしいんだね。いつもこんな遊びをしているの?

 そんな僕の心の中が、見えているのかいないのか。もうもうたる湯気のなかで、水音と裕未の喘ぎが交錯する。
 下腹部から繁みに向かってシャワーを移動する。まだここはゆっくり流してなかったね。
「足を、広げて」
 その言葉に裕未は抗わない。抗えない。恥ずかしがる気持ちと求める気持ち、ふたつを天秤にかけて少しずつ足が開いていく。
「あぁっ!! だめ、だめ……」
 開いた隙間に奔流が襲って、裕未は激しく首を振る。耐え切れずにトンと壁に背中が寄りかかってズルリと体が滑る。膝が軽く曲がって敏感な芽が水流の直撃を受ける。
「ふわぁっ!!……ひっ!」
 湯気のカーテンの向こうで水流に悶え感じているさまは、たとえようもなく妖しくて淫らだ。
 もっと感じて。秘裂を前後に擦るようにヘッドを動かす。くたっと裕未の体が崩折れて床に膝をついた。手がすがるものを求めて浴槽のふちを掴んで、びくびくと背中が震えている。興奮して熱くなっていく気持ちを流れに変えて、僕は間断なく裕未を責め続ける。もっと、もっとだ。
「やぁああぁぁっ!」
 唇を震わせて裕未がその時の声を放つ。シャワーを握る僕の手首を、裕未の片手が強く掴んでいた。払いのけるのかと思っていたが、しなやかな指は意外な強さで握りしめてきた。そうまるで裕未自身が意志をもって、感じる部分に水飛沫を欲しているように。
「あっ、あ……いま、あたし……」
 達してしまった事が信じられないという風に座り込んで、僕を掴んでいた手も離し、ほつれたおくれ毛を頬にはりつけたまま、放心している。
「すごく可愛かった」
 耳朶に唇を寄せて囁いた。裕未はまだ体の中に快感の余韻を漂わせているのだろう。暖めるように胸元に湯をかけると、くすぐったそうにする。鋭敏になってしまった感覚はいまだ醒めずに、次なる興奮を求めているように見えた。



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