彼の事情 ―― 2 ―― 「裕未、ごめ……」 調子づいて昂ぶっていた気持ちが急速に冷めていく。違うんだ、そんなつもりじゃなかった。僕の肩を濡らしてしゃくりあげながら泣く裕未を、呆然として抱きしめた。 乾きかけた裕未の髪の毛を、ゆっくりと撫で続ける。 あのとき画像の中にいた裕未は、眩しいほどに輝いて僕を誘っていた。 『ねぇ見て。私はここよ。秀行のすぐそばにいるの』 そう言いながら僕をけしかけているようだった。勃起をさそう興奮と、眩しさゆえに感じる嫉妬。裕未に浴びせかけるように僕はたちまちに射精したが、精を放った後には猛烈な虚しさに襲われた。どんなに求めても裕未に触れられないもどかしさ。 あのとき焦れるほど必要としていた人が、いまは腕の中にいて嗚咽をもらしている。何を話しても言い訳になってしまいそうで、僕には紡ぐ言葉がない。 「ごめん、泣くつもりなんかなかったのに」 裕未はひとしきり泣いて落ち着いたのか、まだ濡れた目をして照れくさそうにしている。 「いや、謝るのは僕のほう……」 ひどく情けない気持ちになって、涙を吸い取るように瞼にキスをする。 「ううん。あの時のこと、思い出したら急に涙が出てきちゃって」 告白するように裕未はポツリポツリと耳元で語りだした。 「撮っているうちに、ほんとうに秀行に見られているような気持ちになって、それで……なんだか、感じて、きて……」 だんだん小さな声になる。そこに飛んで行きたかったよ、僕も。 「おかしくなったの。……いやぁ」 聞きながら僕は懲りずに悪戯を再開していた。こんな可愛らしい告白を黙って聞くだけなんてできる訳がない。 湿った場所に手を差し入れて、上下に指を這わす。裕未の足は開いたり閉じたりして感じることに抗っているように見える。さっきの涙で休憩していたトランクスの中のものが、力を得たように勢いづいていた。 「でも、その後にすごく寂しくなって……んんっ! 思い出してたら……」 胸のうちに不思議な感慨が湧き起こっていた。あの時、裕未も僕も同じ想いだったのだ。距離を超えて結ばれたように感じたのに、その後に何かが逃げていくような空虚さが訪れる。隔たっていた心の隙間を埋めるように、指を遣って裕未を喘がせる。クリトリスの周辺を撫で回すだけで、言葉が切れ切れになって苦しげな表情を見せる。 「やっと、会えたのに、意地悪ばっかり、するから……あぁっ、もうだめ」 裕未の溢れる部分はますます熱くなっていた。入り口を訪問した僕の指を、そっと咥えこんで出迎えてくれた。少し動かすたびに、くちゅくちゅと音を立てる。裕未の体が僕の胸に寄り添った。 「ばか秀行、明日には帰っちゃうんでしょ?」 「ああ」 「じゃあ、もういっぺん、して」 かすれたような声で囁いた。 「それは、無理だな」 そう答えると裕未の背中が固まった。身を起こして怒ったような顔で僕を見つめる。 「いっぺんだけ、なんて無理だ。朝まで寝かさないつもりなんだから。覚悟しろよ」 照れ隠しに裕未と僕の間にある邪魔っけなもの、バスタオルをはだけて取り去る。ぷるんと零れでた胸のてっぺんが、すでに尖って固くなっているのが分かる。 ひげのチクチクが裕未の父親の記憶なら、これも僕の遠い記憶だろうか。裕未の胸に顔をうずめて尖った蕾みに吸いつく。 「ぁあっ!」 裕未がひときわ高い声をあげた。 吸いついても口に含んだだけで、蕾みに触れないままでいた。含んでいないほうの胸をやわやわと触る。裕未を焦らすように。背中からお尻にかけても手の平で撫でていく。 「んんっ……」 腰をもじもじとさせながら、裕未が両手で僕の頭を抱えこんだ。その行為だけで欲情が伝わってくる。 駄目よ、さわって、もっとして、と。 待ちきれない想いを宥めるように、蕾みのまわりに舌先を這わせる。続く快感を期待して裕未の背が震えた。 大丈夫だ、待っていて、必ず触れてあげるから。 口から蕾みをそっと離して、閉じた唇を上下させ先端を弾く。もう片方は指の谷間で軽く挟む。喘ぐ声が艶をまし、より強い刺激を求めて僕の顔に胸を押しつける。 裕未の唇から漏れる吐息で、頭の中をいっぱいにしたい。そんな想いで尖った部分を甘噛みした。 「んぁ……はぁっ」 どことなく焦点の合わぬ眼で僕を見つめている。裸の胸板を裕未の指がさするように這って、トランクスの上から固くなったものをそっと押さえる。 「欲しいんだね?」 そう問うと少し困ったような顔をした。まだその事を口に出しては言えない、そんな風情をみせる。何も身につけぬまま僕の膝からすとんと降りると、 「向こうで……」 と小さく言った。 裕未が先にたって僕を寝室に導いてくれる。肩に手をかけ後姿を鑑賞しながら後に続く。 べッドに横たわった裕未は、あどけなく誘うような表情をしていた。 ゆるやかに流れるウェストから腰・太腿にかけての曲線、繁みにいたる下腹部のなだらかな膨らみ。裕未の裸身はボティチェリの絵のようだ。 「いつまで見てるの?」 視姦に耐え切れずに呟く。触れられれば幾らでも快感の叫びをあげるくせに、じっと見られているのは嫌だという裕未の感覚が、僕には不可解でならない。 「いつまででも。見飽きないから」 「意地悪……」 僕の視線から逃れるように横を向き、頬が少し赤く染まる。裕未の乳首は固く尖ったままだ。見つめられながら濡れているのかもしれない。ふとそう思った。 確かめるように足元に跪き、両足をそっと開いていく。少し開いたところで膝頭を抑え裕未の反応を見る。横を向いたまま、目をきつく閉じている。抵抗はしないけど、何が行われているか確認したくない、そんな気持ちなのだろうか。 「嫌ならそう言って、裕未?」 「あ……」 否とは言わなかった。でも心の中の葛藤を表すように眉根を寄せた。 「もっとよく見せて」 足を押し広げる。夏の午後の日差しが照りつけている部屋の中で、裕未の太腿がこわばった。顔を近づけ、熱い部分に吐息をかけて見つめる。 「ひゃ……」 両手で顔を覆った。でも足は閉じられなかった。クリトリスから会陰にかけてまで夥しく濡れている。周囲を取り巻く薄い翳りも、露を帯びて光っている。その最奥で息づいているピンクの小さな花びらが僕を誘う。蠢いて蜜を吐き出しながら。 もう一度吐息を吹きかける。両足が震えて喘ぎが漏れる。目の前で熱い蜜が溢れた。 「ありがとう」 呟いてあふれた蜜を唇で吸った。恥ずかしさに耐えて僕に許してくれた、その気持ちがいとおしくて。後からあとから湧き出す熱い部分に何度もキスをした。 Back Next |