フェイク



――プロローグ――



 その日 部屋の中でシェリーは漫然とTVを見ていたが、どことなくそわそわしていた。
 ただ点けているだけのドラマの筋立ても、まったく頭に入っていない。それでいてTVのスピーカーから流れるドアチャイムやら、電話の着信音やらには、敏感に反応するので、誰かの訪問か連絡を待っているらしい。
 画面が退屈な静止画像に代わったころ、今日はもうダメだと諦めたようにスイッチを切った。

 部屋の隅で電話が鳴った。プルル、プルル、プ。二度鳴って切れる。
 それが合図だったように、次のコール音が鳴るより早く、シェリーは受話器を取り上げた。
「もしもし……そう、待っていたわ」
 遅くなった連絡を詰るような言葉、でも頬はうれしさに染まっている。しばらく相手の声に耳を傾けていたが、やがて顔を曇らせた。
「そんな……嫌だわ。そんなこと…………仕方ないわね。わかったわ、やってみる。でもその代わり……ええ、そう、来週までには何とか。じゃあその時に」
 どうやら無理難題を押しつけられたようで、電話を切ったあと眉間にしわを寄せていたが、意を決したようにもう一度受話器を取り上げた。

「ジン? わたしよ、シェリー……ご挨拶ね、こっちから連絡してはいけないとでも? …………会いたいのよ、理由はそれだけ。他になにか必要かしら?」



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