フェイク
――エピローグ――
やっぱり雪になったな。
ぼやきながらウォッカは来た道を戻っていた。
無口な上司に、まだかかりそうだから先に晩飯にしてろと、命じられての帰り道である。
車に戻ると、運転席に座っていたはずの彼の姿が見えない。目をこらすと、助手席を倒し帽子を顔にのせて、闇に埋もれたように横になっていた。
どうやら用は済んだらしいと合点して、彼を起こさないように注意しながら、静かにドアを開ける。席についたところで、眠っていたはずのジンの顎が軽くあがった。
帰るぞの意味だと思い、何も言わず車をスタートさせる。
ジンが小さく呟いたような気がして、耳をそばだてる。
穏やかな寝息が聞こえていた。
[蛇足のおまけ]
フェイク [fake] 〔フェークとも。いかさまの意〕
(1)模造品。にせもの。
(2)アメリカン-フットボールで、攻撃側の選手が相手をだますためにしかける行為。
(3)メロディーをある程度の装飾的な変化をつけて演奏すること。
Back Novels-ss ―― fin.