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 夢のつづき



 どうにも納得がいかなかった。ジャリテンに聞いてもはかばかしい答えは返ってこない。あいつにまともな返事を期待するほうが、間違っとるかもしれんが。


 なんだったんだ、あの夢は。そしてこの寝起きの悪さときたら。
 夢の中の俺は、ラムの名前が思い出せなくて苦しんでいた。誰よりよく知っているはずなのに、忘れるはずもないと思いながら、たどりつけなかった。

 台所からラムの鼻歌が聞こえる。ラムのあの機嫌の良さと、起きぬけにジャリテンが投げかけた言葉で、俺はいっちょ賭けてみる気になった。

 階下におりてさりげなく声をかける。
「お、ラム何をしている?」
「晩御飯作ってるっちゃ。今日はお父さまもお母さまもいないから、ダーリンにうちの手料理食べさせてあげるっちゃ」
 食べられるモノを作ってくれれば良いがな。今夜の夕食には覚悟が必要だ。
 真っ白なエプロンを身につけているのが、ちょいと眩しいではないか。ふざけて尻を触ったりじゃれつくふりして、そっと背後に忍びよる。
「だめっちゃ。危ないっちゃよ」
 耳たぶに噛みついたり、服の上から胸を揉んだりして、ちょっとずつその気にさせていく。ラムの手を背中に回させると、すばやく隠し持っていた紐で手首を縛った。
「あ、ダーリンッ! なんで? ……晩御飯 作れなくなってもいいのけ?」
「今日の晩御飯は、ラム、お前だ」
「え?」
 速攻勝負だ。驚いてるラムを尻目に、ブラをはずしてエプロンの上からさわさわと触る。
「ちょっ……ダーリン、二階に行ってお布団の上で……んっ、あぁっ!……ここじゃ恥ずかしいっちゃ」
 ラムの乳首がツンと尖っているのが、真っ白なエプロンの上からでもよく分かる。
「だ、だめだっちゃーっ! ここ台所だっちゃよっ、ダーリン!」
 布団の上でエプロン姿じゃあ、ちっとも燃えないだろうが。
「わかっとるっ」
 ラムの首筋をちろちろっと舌先でなぞる。それだけで甘い吐息が漏れてくる。ふんっ、ほんとは感じて嬉しがっとるくせに、往生際が悪いわ。
「ダ、ダーリンッ……せめて、せめてこれ、ほどいて欲しいっちゃーっ」
 エプロンの上から、焦らすようにさわさわと柔らかい膨らみを揺らすと、身悶えしながら訴える。誰の趣味だか知らんが、こんなそそるエプロン姿でいるお前のほうが悪いんじゃ。
「ほどいて、欲しいか?」
 首をぶんぶんとすごい勢いで縦にふる。
「ほどいたら、俺の言うこと、なんでも聞くか?」
「きく、聞くっちゃあっ。……え?? なんでもって、ダーリン?」
 ふふふ。底意地の悪い笑顔が浮かんだろうと想像する。自分じゃ見えないからな。ラムの顔が一瞬ひきつった。
「よしっ、いい返事だ。ほどいてやろう」
 言いながらするするっと下のほうも取り去る。にまッと笑う俺に、信じられないという
顔をする。
「違うっちゃあッ! ダーリン嘘つきだっちゃ!……ひっ……」
 脱がせながら、俺を嘘つき呼ばわりするラムの割れ目を、つつつッと指で擦る。ほぉれ見てみぃ、もう溢れとるじゃないか。指を離すと透明な液が糸をひいた。



 何をやらかしたか知らんが、あのヘンテコな夢はこいつの仕業に違いない。
 そうだ、これはお仕置きだ。
 ぷりんとした臀部にかかるエプロンの白いリボン……た、たまらん。これではお仕置きと言うより、我慢比べになるかもしれん。
「や、やめるっちゃあ! 約束、破るのけ?」
「約束? ふんっ、そんなもんハナからしとらんわ」
 そもそも股の間から涎垂らしながら言っても、なんの説得力もないわ。後ろ手で縛っているせいで、突き出た胸がよけいに強調されている。てっぺんを布地の上からくりっと摘まむ。
「ちゃあっ! あ、あぁんっ……ひどいっちゃ、うちが何したっていうのけ?」
「聞いたぞ、ジャリテンに。よくも俺をハメてくれたな」
 ラムの顔からさぁっと血の気が引いた。それ見ろ、やっぱりやってくれたな。
 ジャリテンに聞いたというのは、半分ホントで半分ウソだ。あやつとてラムの味方だ。そうペラペラと喋るわけがない。
 奴が言ったのはたった一言。『オイ、よく眠れたか?』ってな。

「ダーリン……怒ってるっちゃ?」
「ほどいてやるからそこへ座れ。ゆっくり聞かせてもらおうか」
 そこ、と指差した先には、古ぼけた肘掛け椅子がおいてある。さっき物置から引っ張り出してきたやつだ。
「ダーリンを怒らすつもりなんか、なかったっちゃ。ただ確かめてみただけだっちゃ」
 しおたれてみても今さら遅いわい。裸でエプロンのそそる姿のまま座るラムを見ていたら、ますますむかっ腹が立ってきた。
 あの目覚めの悪さ、思い出しても腹の立つ。夢の中での俺の焦燥、砂を噛むような苛立ちが、こいつに分かってたまるか。
「今度は何をやらかしたんだ。おい」
 とりあえず手首の紐をといてやる。約束だからな。自由になった両手を確かめるように手を開いたり閉じたりしている。少しきつく縛りすぎたか。
「痛かったか?」
「大丈夫だっちゃよ」
 くっそォ、けなげに微笑みやがって。手首にはきっちり紐の痕が残っとるでないか。潤んだ瞳で見上げられて、誘われるように唇に吸いついた。柔らかい唇を味わって、乱暴に舌でラムの口中を犯しているうちに、俺はもう「お仕置き」なんてどうでもイイと思っていた。そのときは。
 夢から醒めて俺は思い出せたんだ。だからいいんだ。ラムだ、俺だけの女だ。
 唾液が糸をひいて小さく声が漏れた。エプロンの脇から手を突っ込んで、胸の尖りを転がしてみる。身をよじる姿がいじらしくてもう一度舌を絡めた。甘い喘ぎがしておずおずと舌を絡めてくる。流れ込んだ唾液を、ラムの喉がごくりと飲み込んだ。
「……ん、はぁっ……思い出して欲しかったっちゃ、うちのこと。ダーリンならそれができると思ってたっちゃ。記憶なんか消しても……」
 
 ……いまなんと言うた?

「雑誌の付録だったっちゃよ。ダーリンは一生懸命うちのこと、考えてくれたっちゃね。だから嬉しかったっちゃ」
 記憶を消しても、好きなひとが思い出せるかどうか、そういうゲームだったと、ラムはそう言ったのだ。頭の中で何かがぷつんと切れる音がした。
 
 こいつは……俺を、試した、のか?

「ダーリン?」
 押し黙る俺に、異様な気配を感じたらしい。とりあえず俺はニヤっと笑ってみせた。笑顔に見えたかどうかは分からないが。
「記憶を消して、それからどうした?」
 手に持っていた紐でラムの手首を縛りなおす。今度は椅子の背を後ろ手に抱えるようにして。



「ちゃ、ちゃぁーーっ! な、なにするっちゃ、ダーリン!!」
 暴れるラムの角をつかんで動きを封じる。椅子に括りつけられたエプロン姿のラムは、こんな事態になっても妙にそそるモノがあった。
「答えろ!」
 ぐいっとエプロンの上から、胸の形が変わるほど鷲づかみにした。こいつはわかっていない。こんなに長い間、俺と一緒にいても全然わかっちゃいないんだ。
「あぁっ! 痛いっちゃ、ダーリン! 言うっちゃ。言うから手を離してっちゃ」
 コケにされっぱなしで、そう簡単には許せんわい。胸元のボタンをひとつはずす。突きでた胸を覆っていた布地がはらっと前に倒れて、カタチのいい乳房がこぼれでた。震える尖りを両手で摘み上げる。
「くふっ! んっ! そ、それから……ダーリンの夢を覗いたっちゃ……」
「ばかものっ!」
 こいつは俺に惚れとる。心底惚れこんどる。だがどうしてもやってはいかん事があるのと違うか。俺は一喝すると、ラムの両足を広げた。大きく持ち上げて、濡れて光る、その部分がすっかり見えるようにだ。
「やめ、やめるっちゃ、ダーリン! ……ま、丸見えに…なるっちゃ……」
 その言葉を聞いて俺はもう一度ニヤリと笑った。ラムの声は最初は絶叫するように、それから震えて羞じらうように、小さくなった。
「丸見えになったら、まずいか?」
「……は、恥ずかしいっちゃよ……」
 ムラムラとこみ上げてくるものがあった。
 そうだ、恥ずかしいわい、俺だって。お前の名前が思い出せずに苛立って、追い求めてあがいてる姿を見られたら。
「そうだな、恥ずかしいな。涎を垂らしているココが丸見えとあってはな」
 指摘するそばから椅子の上に雫がこぼれた。泣き出しそうなラムの両足を肘掛けに乗せ、片方ずつ紐で括りつけた。
「ちゃあっ!! いやだっちゃアーーーーーッ!」
 真っ赤な顔をして絶叫した。誰かが空を飛んできて、助けに入らないといいが。椅子をガタガタ言わせて暴れるのを、角を擦り、胸の尖りを舌で転がして喘がせる。ホントは腹が立ってしょうがないはずなのに、たまらなく淫らで愛しい奴だと思った。
「や、やめるっちゃ! ダーリン! ぁふ、ふっ……!」
 溢れた雫を指に塗りつけて、乱暴に割れ目を擦りあげる。
「ほう……やめて欲しいんか」
 嘘をつけ。上目遣いに睨みつけながら、ツンと突き出た乳首を軽く噛んだ。充分に膨らんだ粒の上でぬるっと指先が滑って、ラムの顎がびくんと跳ねた。
「ち、ちがっ……あ、やめっ……」
「どっちなんじゃ! はっきりせいっ!」
 喘ぎながら首を横に振る。緑の髪が揺れる。強情な奴じゃ、はっきり言葉にせんかい。後から後からこぼれだす雫を舌先で掬いとる。じゅるっと音を立ててそいつを啜ってやる。
「ちゃあっ! だめっちゃアーーーッ! イ、イイっちゃあ、ダーリンーーーッ!」
 足の爪先がぴくりぴくりと伸びたり縮んだりしている。相変わらず訳のわからん叫びをあげて、腰を震わせる。椅子に括りつけとるはずなのに、ちょっとずつ濡れた口が俺のほうに押し付けられるのだ。赤く膨れた粒が宝石のように目の前で濡れて光っていた。


 ――ダーリン、うちはここだっちゃ、食べてたべてタベテ……

 聞こえないはずの言葉が耳鳴りのように聞こえた。
 食べてやる、心ゆくまで。地獄の底までお前と一緒だからな。
 俺はまたラムに変てこな夢を見せられているのかもしれない。
 赤ん坊が乳房に吸いつく様に、俺は魅入られたように赤い粒に吸いついた。
「ひっ、ひゃあーーーっ! ダーリン、ダーリンーーーッ!」
 美味しいおいしいオイシイ……俺はこいつをいくら食べても飽きることがない。吸ってつついて捏ねくりまわす。溢れる汁が顎を濡らすのもおかまいなしだ。
 いいんだ。俺のものなんだから。
 ヤキモチ焼きで嫉妬深くて、騒々しくておまけに淫乱でどうしようもない女。
「やっ、やだっちゃ。許して。ほどいてっちゃあーーーっ! イイっちゃあっ!!」
 許して? とっくに許しとるではないか。いや違う。忘れていた。こいつには一つだけ言っておく事がある。大事なことだ。
 顔をあげて顎を袖でぬぐうと、俺は立ち上がった。黙って服を脱いでいった。シャツもズボンも下着も、ぽんぽんと脱ぎ捨てて素っ裸になった。ラムが目を丸くしてこちらを見つめていた。大股開きで椅子に括られ、喘いで煙るような瞳がある一点に止まった。
 そそり立つものを見せつけるようにして、俺は立っていた。ラムの喉がゴクリと鳴った。
「ダ、ダーリン? ……まだ怒ってるっちゃ?」
 無言のまま俺はラムを括った紐を解きにかかった。最初に足を、それから手首も開放する。もはや腰に巻きついとるだけの、布切れとなってしまったエプロンも、ほどいてとりさった。ラムは足を揃えて椅子に座って神妙にしている。
 その顔をぐいと掴んで短く聞いた。
「欲しいか?」
 ラムが目を伏せた。ほんとに小さくだが、ちょっとだけコクンと頷いた、ように俺には見えた。もう一度足をかたほう持ち上げて、椅子の肘掛に乗せた。ラムはそのままの姿勢で黙って俺を見つめていた。

 ――うちはダーリンのものだから、好きにしてイイっちゃよ……

 また頭ン中で声がした。そろそろ我慢の限界なのかもしれん。
「忘れるな、お前は俺の女だ。だから、俺を、試すな」
 ラムの耳元で囁くように呟くと、俺は深くふかく貫いた。



 熱く締めつける中にいた。ダーリン、ダーリンとうわ言のように呼ぶ声を聞きながら、憑かれたように襞の中を抉り続けていた。緑の髪の女だった。不思議な色をした髪を振り乱して、狂ったように俺にむしゃぶりついていた。
 そうだ、こいつだ。たとえ名前を忘れても、どこか違う場所で出逢っても、俺はこいつを忘れることはない。決してだ。

 遠い星から来た女、俺だけのために。



 それからの事を俺はあまりよく覚えていない。事が済むと相変わらず不機嫌なまま、ラムの手料理とやらを平らげた。そして泥のように眠りこんだ。
 それこそ、夢も見ないで。



 また朝が来た。騒々しい奴の脳天気な声がした。
「ダーリン、起きるっちゃ。朝ごはんだっちゃよ」
 押入れの隙間からジャリテンがじろりと睨んだ。昨夜のことを知っているのだろうか。あくびをしながらもぞもぞと起き上がる。
「……たっちゃよ、ダーリン。面白いっちゃね」
 なんだ? よく聞こえない。
「まだ寝惚けてるっちゃね。さっき聞いたっちゃよ。ああいうのはSMぷれいって言うんだっちゃね。ダーリンが好きなら、うち、勉強してまたやってみるっちゃ」
 な、な、何を言っとる。勉強してって……朝っぱらから誰にどうやって聞いたんだ。
「早く着替えて朝ごはんにするっちゃよ」
 ちゅっと額にキスをして、とんとんとラムは階段を下りていった。
 くらくらと眩暈がした。まだ俺は悪い夢の続きにいるのかもしれない。もういっぺん眠ったらこの夢は醒めるのだろうか。


 誰か教えてくれ。



Back ―― fin.




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