18さいみまんのひとは よんではいけません     このサイトから出る  サイトTOPへ行く   



 囮捜査



――― 1 ―――




「ねぇ、聞いてよ、蘭。隣のクラスからの情報なんだけど」
 放課後の帰り道、園子は憤懣やる方ないといった様子だ。
「米花線の決まった車両に、すんごくシツコイ痴漢がいるんだって。ヤられちゃったコは、怖くて電車に乗れなくなっちゃったって」
「えーっ?」
「大きな声じゃ言えないけどさぁ……」
 さすがに辺りを憚るのか、園子の声が小さくなった。痴漢行為の詳細が語られているのだろう。聞いている蘭の顔が、赤くなったり蒼ざめたりする。
「ひっどーい、女の敵ね。許せないっ」
 瞬間湯沸かし器並にメラメラと、殺気が吹き上がる。園子の目には、蘭の姿が炎に包まれたように見えた、かもしれない。
「そうよ、蘭。その意気よ。痴漢なんてボッコボコにしてやって!」
「聞き捨て……ならないなぁ」
 二人の会話に、長身の美女が割って入った。
「ふふふ、聞いちゃった。米花線で悪質な痴漢ですって?」
「「さ、佐藤刑事ー!」」
「自分達で痴漢を何とかしようなんて、考えちゃダメよ。こういう事は警察に任せておいてね。わかった?」


 数日後の朝、通勤のサラリーマンで混雑する米花駅前に、人待ちげな高木刑事の姿があった。
「お・ま・た・せ、高木くん」
 ポンと肩を叩かれ、振り向きざま絶句した。
 ぴっちりしたミニスカートに包まれた、引き締まったヒップは言うに及ばず、何よりスラリと伸びた足が美しかった。目のやり場に困るなんてものではない。
「さ……佐藤さん。さすがにそれは、挑発的では……」
 普段はパンツスーツで隠されている脚線美が、いま高木の目の前で惜しげもなくさらけ出されている。少し濃い目の化粧、艶やかに彩られた唇も蠱惑的だ。
 こうやって立ち話をしている間にも、通りすがりの男が何人も振り向いて美和子を注視している。
「あら、似合わないかしら」
「いえっ。と、とっても似合ってますっ!」
 夏らしくアイボリーのスカートに、同色のジャケット。キャミソールはレースで縁取られ、胸元の露出度も高い。形の良い鎖骨には、涼しげなストーンのネックレスが揺れている。肩から提げた派手めのバッグは見慣れないもので、いつもの佐藤刑事のイメージとかけ離れていた。
「実はね、バッグとアクセサリーは、園子ちゃんに借りたのよ」
 呆けて見つめる高木に、美和子が耳打ちする。
 接近した拍子に胸の谷間が見えて、思わず本来の目的を忘れそうだ。
「じゃ、行きましょうか」
「はいっ!」


 米花線に出没する悪質な痴漢の情報は、現場の刑事たちの耳にも届いていた。悪戯半分で女性のスカートを切ったり、混んだ車内で女性の体を触った挙句、太腿やスカートを精液で汚すなど、日々その行為はエスカレートしている。
 中には体を触るだけで飽き足らず、携帯で下着や局部の写真を撮る輩までいると言う。女の子が動揺している隙に生徒手帳を抜き取って、それをネタに口止めしたり、脅迫行為に及ぶという噂も聞かれた。
 そんなこと、放っておけない。
 美和子は唇を噛み締めながら、ヒールの音を響かせて駅構内を闊歩する。その後ろをついて歩く、高木刑事の心配そうな顔色に気づく事はなかった。
 混雑するエスカレーターを避け、二人は階段を上っていく。美和子より数段下を歩く高木の目線からは、スカートの内側にある、スラリとした白い太腿まで見てとれる。会った時には気づかなかったが、ストッキングを履いていない素足である。こうしている間にも、佐藤刑事の肢体が、他の男たちから視姦されているかもしれない。使命感に燃えて昂揚する美和子とは正反対に、高木刑事の胃はキリキリと痛む。
 つかず離れずして上ると、角度によってはショーツが見えそうなほどで、高木は時ならぬ動悸を鎮めるために大きく息を吐いた。
 美和子がピタリと立ち止まる。
「ちょっと、高木くん。何でついてくるの?」
「あ、や、その……佐藤さんに何かあったら大変ですし」
 まさか、スカートの中身に気を取られていました、なんて言えるわけもなく。
「カップルに痴漢を仕掛けてくる奴なんて、いないじゃない。少し離れた場所から、私をサポートするのが高木くんの役目。合図をするまで近くに来ちゃダメよ。いいわね?」
「……了解です」
 混んだホームで電車を待つ間、美和子は周囲を探る事を忘れなかった。特に不審な人物は見当たらない。だが、何度か背中に焼け付くような視線を感じた。それが誰のものであるか判らず、不安ばかりが募る。静かに深呼吸をすると、高木刑事の姿を目で追う。目指す相手を柱の陰に見つけると、美和子に平常心が戻った。
 今日は痴漢に遭遇するまで、ラッシュ時の米花線を何往復かするつもりだ。
 軽快なチャイムが鳴り、銀色の車体がホームに滑りこむ。危険な囮捜査が始まった。


 乗りこむ、というよりは押しこまれるように、美和子の後姿が車内に消えていく。佐藤刑事の白っぽい服装は、グレーや紺のスーツやワイシャツ姿に隠され、人垣の隙間から見えるだけ。空調は効いているが、人いきれとすし詰めの圧迫感で、息苦しささえ感じる。
 実際に、美和子と高木の間には、数名の乗客がいるだけだ。距離にして二メートルに満たない。
 だが、この身動きの取れない空間で、いざ合図があった時に予定通り行動できるだろうか。急に美和子が手の届かない場所に行ってしまったように思えて、後から乗った高木刑事は、いわれの無い不安に駆られる。
 それだけではない。美和子とふたり同時に公休を取って、逸脱した捜査を行っている事がバレたりしたら……。捜査一課の面々を思い出し、想像しただけで高木の背筋はぞくりとした。

 混みあう車内で、佐藤刑事は何とか体勢を整えようと躍起になっていた。汗ばんだ肌が互いに密着し、不快感が増す。腕一本すら自由に動かす余裕はない有様だ。
 ようやっと体の周囲に、ほんの少しの隙間を空けると、油断なく周囲を見渡した。
 美和子が立っているのは、乗りこんだ扉と反対側の、扉の手前あたり。乗りこむと同時に人の波に流され、大きな力でこの場所に押しこめられたように思えたのだが、気のせいだろうか。
 すぐ近くの扉の前には、学生風の若い男。顔を外に向け、一心不乱に本を読んでいる。美和子の右側にいる年配のサラリーマンは、手摺に寄りかかり、額に浮いた汗をハンカチでぬぐっている。左側では小柄な初老の男が、半分に折り畳んだ新聞に目を落としていた。さりげなく背後に目を遣ると、OL風の若い女性が眠たげに瞼を閉じている。
 特に心配すべき事も無い、朝の通勤風景に見える。後ろに立っているのが女性だというのも、美和子の警戒心を緩ませた。
 車窓の向こうには、今朝もギラギラと太陽が照りつけ、入道雲が盛り上がっている。
 もし今日の囮捜査が空振りで、何事も起きなかったら。二人でゆっくりブランチを食べ、映画を観に行くのも良いかもしれない。それから……。楽しいデートの予定を想って、美和子の口元に自然と笑みが浮かんだ。

 乗降客がざわめき、また扉が開く。吐き出される人数より、吸いこまれる方が多い。
 高木は窮屈な姿勢で必死に佐藤刑事の姿を捜す。彼の場所からは、かろうじて美和子の頭の先が見える程度だ。美和子の少し後ろには、上背のある体躯の大きな男が立ち塞がっていた。せめて、こちらを振り返ってくれたら安心できるのにと思うのだが、電車に乗りこんでから一度も視線が合わない。
 やきもきする高木刑事をよそに、すし詰めの箱は提無津川を渡っていく。

 同じ頃、佐藤刑事の周りでは小さな異変が起こっていた。
 さわりと、美和子の尻を撫でる感触があった。痴漢かもしれない。そう思って美和子は眉根を寄せるが、確証はない。電車の揺れでぶつかっただけと、言い逃れる可能性もある。
 美和子は、そ知らぬふりをして次の出方を待った。スカートの中に手が入り、痴漢が言い訳ができない状況になるまで、待つのだ。罠をはって辛抱強く獲物を狙う、ハンターのように。
 細い指先が、ミニスカートに包まれた腰のラインを撫でた。掌が尻の丸みを覆い、その形を味わうような動きをする。やがて手は太腿に触れ、スカートの裾に辿りつく。
 現行犯逮捕のタイミングに備えて、美和子は呼吸を整えた。悪戯をしている腕を、片手で捻り上げるだけだ。高木刑事に知らせるまでもない。
 だが一体、この手は誰のものなのか。ふと興味を惹かれて、美和子はそっと背後の様子を伺った。
 やや骨ばった細い指が、アイボリーの布地をめくっている。ショーツに包まれた尻肉に辿りつくまで、あと数秒。痴漢の正体が、ふわりとしたワンピースをまとったOL風の若い女性である事を知ると、美和子の表情に驚きが走った。
 まさか。
 その瞬間、電車が揺れる。支えを求めて抱きつくように、背後から腕が巻きつく。「女性」は意外なほどの膂力で、美和子の自由を封じこめた。密着した体の隙間で、押し付けられる熱いかたまり。硬さと形状からして男の肉茎以外であり得なかった。
 女だと思っていたけど……そうではなかった?
 動揺する美和子を覗きこむようにして「女」がニッと笑いかける。喉元に見えるのは、男のしるしである突起。小柄な青年の女装姿だった。
 両腕の自由は利かず、背筋が冷える。助けを呼ぼうとした時、顔の前に手が突き出された。ずいぶん皺だらけの小さな手だ。その手がひらりと翻り、手の内に持っていたモノを美和子の口に被せた。
 透明な板に球形のものが付いた、ボイスシャットと呼ばれる口枷である。高木の名を呼ぶために開かれた唇には赤いボールギャグが収められ、透明な板が口元全体を覆う。
 美和子の左脇に立っていた初老の男は、新聞のコラムに目を通すふりをしながら、これだけの事を手早くやってのけた。透明な板に付けられた細い塩ビ製のベルトを、女装男が美和子のうなじで止める。唇は半開きのまま、美和子は声を奪われた。
 こいつら、グルなの?!
 なかばパニックに陥った佐藤刑事の両手首には、後ろ手に柔らかいテープが巻かれ、手錠を嵌められたように身動きできなくなった。
 狩る者と狩られる者の立場が逆転する。美和子の額に冷たい汗が滲んだ。

 背後からの手が、張りのある白い太腿を滑っていく。指先はためらうことなくショーツに包まれた尻に辿りつき、撫でさすった。
 美和子の肩が震える。わずかに上げた呻き声すら、傍らの男が新聞を折り畳む紙音に、かき消されてしまう。女装男は柔らかなスカート越しに、屹立した凶器を美和子の束ねた両手に擦り付ける。
 こんな現実は予想していなかった。半開きの唇から涎を零しながら、美和子は絶望的な気持ちになった。このままではいけないと、刑事としての本能が囁き続ける。通勤電車の一角で猿轡状のものを噛まされ、痴漢に思うがまま体をまさぐられるなど、尋常ではない。打開する方策は無いのか。
 美和子は、手摺に寄りかかり緩んだ顔つきで居眠りしている男を、じっと見つめた。高木を呼ぶ方法がないのなら、誰かに助けを求めなければならない。電車の揺れを利用して、美和子は肩先を男に軽く打ちつけた。起きて気づいて欲しい、助けて欲しいと願って。
 右隣に立っていた男は、眠たげにうっすらと目を開けた。眼前で縋るように男を見つめているのは、透明な板で口を塞がれた異様な風体の女だ。男はパチパチとまばたきして美和子を眺め、それからニヤリと笑った。うなじに、ひやりとした空調の風を感じ、美和子の頬が蒼ざめていく。
 男はぶしつけな視線を美和子の体に走らせると、胸元を強調しているキャミソールの縁に指をかけた。ためらいなく押し下げ、上品なレース遣いのブラをさらけ出す。細身な体つきに似合わず、むっちりした量感ある胸が、ブラを内側から押し上げている。肉感的な眺めだった。
 反対側に立つ初老の男と意味ありげな目くばせを交わし、頷きあう。ストラップレスブラの上端に手を掛けると、弾けそうな果実を一気に剥く。美和子があげたつもりの悲鳴は、空気の漏れる音にしかならなかった。代わりに唇から溢れた唾液が、下顎から鎖骨の窪みに糸を引いて垂れた。
 剥かれた勢いで、まろび出た乳房は、ふるふると揺れる。外気と男達の視線に晒されて、くすんだ鴇色の乳首が、見る間にツンと立っていく。後ろ手に拘束され胸だけを露出させた不自然な姿勢は、突き出た柔肌の丸みを強調していた。滑らかな肌は、通勤電車という函に不似合いな艶やかさを放っている。
 予想を上回る獲物の美しさに「ほう」と小さく呟きそうになるのを、男は呑みこんだ。
 すぐに触れるでもなく、一方的に鑑賞される屈辱。赤いボールギャグを歯が軋むほど噛みしめて、美和子は男達の卑猥な視線を受け止めていた。
 皆グルなのだ。彼らは「囲み痴漢」と呼ばれる集団なのだろうと察して、美和子は暗澹となった。嬲られ犯されるのと、高木がこの非道な行為に気づくのと、どちらが先だろうか。

 美和子を取り巻く人の輪は小さくなり、大事な獲物を包み込むように彼女の姿を隠した。高木が目をこらしても、大男の体躯に阻まれ美和子の姿は見えない。高木刑事の胸のうちに、イヤな予感が走った。焦れるような時間だけが過ぎていく。
 電車は緩いカーブにさしかかった。身動きのとれない車内で、エアコンの風が蒸れた空気を掻き回している。男達は誰に命じられるでもなく、一斉に美和子の体をまさぐり始めた。統制のとれた手馴れた仕草だった。
 女装男は美和子の肩を後ろから抱きしめて、嬉々とした様子で腰を振った。束ねられた両手に、むき出しの肉茎を擦り付ける。男の持ち物は容姿に似合わぬ、グロテスクな長槍である。脈打つ熱さと硬さを掌に感じて、美和子は身震いした。
 傍らの男は、先ほど自らが露わにした胸元に、狙いを定めた。毛深く無骨な手で乳房を掬いあげ、揉みほぐす。掌を押し返す肉の弾力を楽しみながら、固くなった乳首を太い指先で捻る。痛みを感じたのか、美和子の体がビクリと反応した。
 悔しさのあまり、美和子は男をにらみ返す。だがすぐに、その表情には怯えの色が走った。スカートの中で手が蠢き、ショーツが引きずり下ろされるのに気づいたからだ。身をよじって逃れようとするが、ままならない。その隙に初老の男は、手早く薄布を剥いだ。
 スカートはめくられ、ショーツは膝上で頼りなく丸まっている。下腹部を覆う薄墨色の茂みが、男達の視線に晒されていた。鍛えられた太腿から引き締まった尻への、まろやかなカーブも、彼らの嗜虐欲をそそる。初老男の少しひんやりとした掌が、尻肉を掴んだ。そして無造作に割る。薄茶色をした尻のすぼまりまでもが晒される羞恥に、このまま犯されるのかもしれないと、美和子は慄いた。
 果たして、尻の谷間に強張った肉幹が触れる。滑らかな女の肌を愉しむかのように、それはビクビクと脈打った。美和子の唇からは、悲鳴の代わりに唾液がしたたる。逃げようとあがいて、彼女は前のめりになった。額に何かが突き当たり、はっとして顔を上げる。
 いつの間に、振り向いたのだろう。先ほどまで扉の前で背を向けていた若い男は、薄笑いを浮かべて女のあられもない姿を眺めていた。目の前に仔ネズミを置かれた猫なら、こんな表情をするかもしれない。男の眼は面白そうに細められ、獲物をいたぶろうとする余裕を見せていた。
 背後の女装男、両脇の男たち、そしてこの男で四人目。
 刑事としての美和子の脳裏には、情報が冷静にインプットされていく。だが状況は悪化するばかりだ。彼女のこめかみに脂汗が浮いた。
 男の視線は、縮れ毛に覆われた白い肌に定まっている。美和子は頑なに両腿を閉じているが、その先にある女の部分を見つめているようでもある。両脇に立つ男たちは、美脚の隙間に各々の足をこじ入れ、左右からゆっくりと開いていく。
 男は指先でピンと美和子の乳首を弾くと、上着の懐に手を入れた。ポケットから出された男の指は、ゼリー状のもので濡れている。やがて美和子の両足は拳二個分ほど開かれ、無防備に媚肉を晒した。その狭間に男の指が伸びる。
 指先は襞を分け入って潜り、前後に往復した。ぬるりとしたものが女の一番敏感な部分に、柔肉を湿らすように塗り付けられる。美和子が最初に感じたのは、息を吹きかけられたような涼しさだ。それは次第にムズムズした痒みを伴い、敏感な花芽や粘膜を間断なく刺激した。自らの意思をよそに、秘められた場所が熱さを増し、粘液で潤っていく。
 どうやら媚薬のようなものを塗り付けられたと気づくが、逃れる術はない。男たちは媚薬の効果を知り尽くしているようで、女の体をここぞとばかり執拗に嬲った。
 柔らかそうな双乳は形が変わるほど捏ねられ、白い肌には指が食いこんでいる。時折いたぶるように頂点の尖りを爪の先で弾かれて、その度に美和子は身をよじる。
 若い男の指先は、ぷくりと膨らんだ陰核をとらえた。美和子の肩がびくんと大きく波打つ。さらに奥へと指を進めると、しとどに濡れそぼる襞に触れた。先ほど塗った媚薬ゼリーとは違う、美和子自身の露が滴っている。男は満足げな表情を浮かべると、蕩けた花びらに指を浸して入り口を掻き回す。美和子の頬は、恥ずかしさと口惜しさで紅く染まった。
 痴漢は犯罪である。許すまじき事なのに、意に反して体が熱くなる。その事に、美和子は戸惑っていた。次第に熱を帯びていく頬には髪の毛が張りつき、額には汗の粒が浮く。

 い……や……助けて、誰か……高木く……。
 なんでこんな、ヘンな気持ちに……。
 この男たち、捕まえないと、いけないのに。
 やめて、そこはダメッ!
 あ、あふっ……ヤ……キモチい……いやぁぁぁ。

 わずかに残った刑事としての使命感と、美和子の女としての部分がせめぎあう。元はといえば抵抗する声を抑えるための口枷だったが、今は喘ぎ声を抑える結果になっているのが皮肉だった。
 男は、やわやわと誘うように収縮する秘唇に指を突き入れる。かすかな肉の抵抗の後、その場所はスルリと指を呑みこむと、嬉しそうに新たな蜜を零した。男の掌まで濡らす、おびただしい量である。
 美和子はボールギャグを噛みしめ、快感を堪えていた。気を緩めたら、すぐにも達しそうなほど、感覚が鋭敏になっている。男の指先は深く潜りこみ、女の“なか”を掻き回す。ざらついた内壁の感触を味わうように、指の腹で執拗に擦った。立っていられないほどの疼きで、美和子の下肢は小刻みに震えている。
 弄られている場所は、そこだけではない。胸の頂を捻る者、尻肉を撫で回す者。もはや、どの男の手でどこを弄られているか判らなくなるほど、美和子の意識は乱れていた。今いるのが電車の中であるとか、自分は刑事であるとか、覚えていなければならない大事なものが、輪郭を失って溶けていく。
 熱く熟れた突起は、また違う男の手で捏ねられる。輪を描いて撫で回し、ピンと弾く。とぷりと液体が溢れ、内腿を濡らした。

 やだ……イきたくない……の、に……。
 たすけ……て、たか……っ!

 しなやかな肢体が、わなないた。びくびくと体が揺れる。絶頂の震えは体をまさぐっている男達にも伝わり、彼らは皆一様に好色そうな笑みを漏らした。悔しさが涙となって、美和子の頬を流れ落ちる。
 杯戸駅が近づき、電車は地下へ潜った。車窓は明るい朝の陽射しから暗転し、車内を映し出す、ほの暗い鏡になる。口枷を嵌め、呆けた表情の女が映っていた。涙と涎で顔をぐしゃぐしゃにして、乳首を摘まれている姿は、男達に嬲られるためにある玩具のようだ。
 なんてみっともないんだろう。おかしくて笑っちゃう。
 薄暗い車窓に映る自分の姿を見ながら、美和子はひとごとのように思った。笑ってみせたつもりだが、頬が少し歪んだだけだった。
 背後のドアが開き、美和子の耳にホームのアナウンスが届く。駅に到着しても、身動きは取れなかった。ふらつく体を、両脇から男達に抱えられているためだ。
 男達の愛撫は止まらない。媚薬の効果か、一度達しても美和子の体の奥深くは、疼いたままである。まさぐる男の指に、敏感に反応していた。繰り返し摘まれ刺激を与えられた乳首は固く立ち上がり、白い肌のてっぺんに生った紅い実のように色を濃くしている。
 美和子の体は、わずかに揺れていた。膨らんだ花芽を撫でる指の動きに合わせ、我知らず腰を押し付けている。足の間からは、くちゅりと水音が立つが、人のざわめきにかき消され気付く者もいない。
 停車中の扉越しには、隣のホームが覗ける。口枷をつけた女の姿や、はだけた胸元も、電車を待つ人々に見られているはずだが、男達は気にする様子も無かった。
 ぼんやりと煙るような瞳をして、美和子は息を荒げている。あと数段昇れば再び高みに達してしまうのを、ボールギャグを噛み締めて必死に耐えていた。
 扉が閉まり、電車が走り出す。“なか”を掻き回す指は二本に増やされ、ざらついた場所を擦り上げながら、浅く深くリズミカルに突き入れる。

 また、イク……イっちゃう。
 高木く……ん、どこ……いないの?

 絡みつく肉襞から、つと指を抜くと、さらりとした液体がこぼれ出る。男は深く指をこじ入れ、したたる肉洞に栓をした。
 ずぶりと奥まで穿たれ、体の芯を貫く痺れが走る。二本の指は肉襞を揺するように蠢いた。チリチリと炙られるような快感に、新鮮な空気を求めて、美和子は思わず顎を上げる。胸の双丘を弄っていた男は、それを見て両の突端を指先で押し潰した。
 女の喉から悲鳴に近い声がせり上がる。だが口枷に阻まれて、音にはならない。
 男の指はとどめのように肉芽をまさぐり、手荒く捏ねる。美和子は、ふわりと体が持ち上げられたような錯覚に陥った。濡れそぼった口は男の指をきゅうと締め上げ、そして弛緩する。男達が支えていなかったら、彼女はその場でくずおれていたかもしれない。膝はガクガクと震え、達したショックのせいか、大粒の涙がこぼれた。
 未だ余韻を残して、女の蕩けた肉はひくつき、痙攣のような動きをしている。その感触に男はほくそ笑み、空いた手でズボンのチャックを下ろす。猛り立つ一物を苦労して取り出すと、エラの張った剛直を片手で軽くしごく。尻に擦り付けられている肉茎からは、先走りの汁が漏れているようで、柔肌の狭間でずるりと滑った。
 体液が塗り付けられる気味悪さに、美和子は背筋を震わせる。涙の幕で滲んだ視界でも、前に立つ男の肉塊が、そそり立っているのが見える。人いきれの中で、牡の匂いを嗅いだような気がした。
 犯されるのだ。
 見回せば、初老の男も傍らの男も、それぞれのモノをしごき立てている。美和子には、彼らに代わる代わる犯され、白濁で汚される姿が想像できた。

 高木君……ごめ……ごめん、ね。

 美和子は胸のうちで、ごめんねと繰り返した。恋人への罪悪感が、心を苛んでいる。自らの浅はかさを呪い、彼女は悔しげに眉根を寄せた。
 尻の狭間から蜜を溜めた場所へと、細い指が伸びる。粘液を掬って、後ろのすぼまりを湿らせる。美和子は両目を見開いた。思いもよらない部分への責めに、本能的な慄きを覚える。排泄にしか使った事のない場所を、男は執拗に揉みほぐし、つぷりと指先を忍び入れた。未知の感覚に襲われ、全身が総毛立つ。
 別な男は、動揺する女の片足を膝裏から抱え上げ、足首からショーツを引き抜いた。縮れ毛の翳りの奥には、恥ずかしげもなく涎を垂らした裂け目が、ぱっくりと口を開けている。
 終点の東都駅が近づく。もはや犯されるばかりの有様に、美和子の顔は蒼ざめ色を失った。
 今や男達は押さえつけるだけで、女の体を嬲るのをやめていた。すぼまりを犯す指だけが、奥まで潜りこみ内壁をまさぐる。美和子が次第に感度を高めていくのを、皆それぞれに己のものをしごきながら、静かに見守っている。
 初めは違和感しか与えなかった指の動きが、徐々にぞくりとしたざわめきを運んでくる。その感覚は、男の塗った媚薬がもたらしたものなのか、それとも新たに目覚めた性感なのか。わからなくて、彼女はよりいっそう惑乱した。
 トクントクンと早まっていく自分の鼓動が聞こえる。性器とは到底思えない場所から、さざ波のような何かが湧き起こる。指が粘膜のある一点を探り当てると、美和子は目をみはり、びくんと体を強張らせた。
 こんなことで感じたくないという想いが強くある。だが、意に反して括約筋がきゅっとすぼまった。指を咥えこむように、離さぬように。
 恋人にも触れさせた事がないのに、ぞわぞわとした何かが背筋を這い上った。肉茎の動きを模して、指は強弱をつけ抜き差しする。その度に体はぶるりと震え、開かれた肉の狭間からは新しい滴が漏れた。
 内股をとろとろと蜜が伝う。動かずに見守るだけだった男達が、そこに指を伸ばし淫水を掬い取った。ぬめる指を美和子の眼前に突き出すと、舌でねぶって見せる。別な男は淫らな汁を女の乳首に塗り、涙で濡れた頬にも擦り付けて指先をぬぐった。

 ……クク……ククク……好きものだな、この女。

 美和子には、男達の嘲笑する声が聞こえた。彼女にだけ伝わる声だった。
 言いようの無い屈辱感が、心のどこかを壊していく。
 仕事熱心で勝気な佐藤警部補の姿は、そこになかった。捜査一課の同僚達が今の彼女を見たら、きっと別人だと言うだろう。
 正面に立つ男が、じわりと体を寄せた。十分に猛り、先走りを漏らし始めている肉茎を、潤った秘裂に添わせる。しこった肉芽と蜜をたたえた襞との間を、雁首が嬲るように往復した。
 すぼまりを探っていた指が、するりと抜かれる。代わりに背後からも、熱い肉槍が宛がわれた。女装した男がスカートをまくり上げ、肉茎を押し付けている様は、女が女を犯しているようで倒錯的に見える。ようやく口を閉じたセピア色の蕾は、怯えるようにひくひくと震えた。
 恋人にしか許していない場所を、他の男の白濁で穢される。
 未だ男を迎え入れた事がない処女地を、抉られる。
 諦めと恐怖と怯えと。
 痴漢達の動きを見逃すまいと、気丈に開いていた双眸を、彼女は力無く閉じる。

 高木……くん、どこ……たすけ、て。

 美和子の悲痛な叫びが届いたかのように、高木刑事の胸ポケットで携帯が振動した。





Novels-ss  To be continued.





この作品にヒトコト

送ったヒトコトを  公開OK ナイショ

送信する前に確認画面を出す