My sweetheart



―― 2 ――



 ずずっと重いものが動く音がした。
 振り返ると、いまだベッドの上でミミズ野郎に拘束された さな姉に、その足の間に向かって赤銅色の太い帯が這う。元はホースほどの管だったそれは何まわりも膨れあがり、どくどく脈打っている。鼓動を打つたび、根元から先端にうねりが走る。
「わ……航さん、助けて! なんとかして! さな姉が」
 ずちゅっ。
 開いて濡れた花びらの中心を貫く水っぽい音。
 まるで宙に浮かぶように跳ねる さな姉のカラダ。
「ぁぎぃぃぃーーーっ」
 人とは思えない声で泣き叫んだ。耳を塞ぎたくなる。
 広げられた中心を抉る筒。どくんとパルスを打ち、奥へと深く埋まっていく。



「素晴らしいね。ジェニーも早苗も」
「ええ、とてもステキですわ」
 え…………?
「僕らも参加したいね」
「…………はい」
 そこの原っぱでやってる草野球に混ざろうかって相談してるような航さんと、目を潤ませ頬を赤くして答える なほ姉。
 なほ姉、ヘンだ。航さんもおかしいよ。これ絶対おかしい!
「なっ……。ふたりとも何いって……」
 航さんが無造作にシャツを脱ぎ捨てた。その後ろで なほ姉がワンピースを体からストンと床に落とす。
「何って、当然だろう? 一緒に楽しむんだ」
「あぁ……早苗ったら、あんなに気持ちよさそうで……」
 違うよ。さな姉は苦しがって……。
 ミミズ野郎に捕らえられ、仰け反った さな姉の喉が動く。何かを呑みこんでるみたいに。
 びちびちと魚が水の上を跳ねる音がして、赤黒い筒が両足の中心を抉り続けている。咥えこんだ場所から、白濁し泡だったものが溢れて、滴の流れた跡が筋となって鈍く光った。その先の小さな窄まりは、皺が伸びきるまで拡げられ、別の管を咥えている。
 乳首には吸盤状の管が吸いつき、割れ目にある敏感な芽にも細い鞭みたいなのが巻きついていた。
 口を塞いでいた管はぶるっと震えると、ミルク色の雫を撒き散らして唇から飛び出した。シーツや さな姉の体中に、生臭い飛沫が降りかかる。
 やっと唇が自由になった さな姉から漏れたのは、歓喜の声。
「んぁあっ! ジェニ……いい、もっと……」
「「さあ、実乃里も一緒に!!」」
 一糸まとわぬ姿になった、航さんと なほ姉が、わたしの肩を押した。
「いやぁぁぁー!」
 悪い夢に投げ込まれたみたいだ。
 なほ姉と航さんを突き飛ばす勢いで、部屋の隅っこに逃げたが、何かにけつまづき絨毯の上で転んでしまった。
 指先に感じる、ぐにゃっと生暖かい感触。それが さな姉の秘処を貫き、脈動を伝えている管だと気づき、再び絶叫する。
「ひぃぃぃぃ」
 怖いよう……気持ち悪くて吐きそう……誰か、たすけて。
 ず、ずるりゅっ。
 また新たな赤銅色の帯が、目の前を這っていく。それをムービーでも見るように、ぼんやり眼で追っていた。
 股間からお尻のあたりに、温かな湿り気を感じる。
 腰を抜かし壁際にへたりこんで、わたしは失禁していた。



 どのくらい時間が経ったのか。同じような光景が飽きることなく繰り返される。
 裸の男女と無数のミミズが絡みあい、のたうちまわっている様子は、あまりにもシュールで現実で起こっているとは到底思えない。
 逃げることも忘れ、ただ呆然と眺めているだけのわたし。

 いまベッドの上でミミズの管に絡め取られ、体を軋ませ喘いでいるのは、なほ姉だ。黒く長い髪を振り乱し、額に汗をにじませて、巻きついた鞭のような管で大きな胸を変形するほど歪めている。両の足首に巻かれた管は、二本の足を天井に向けて引っ張り上げていた。むっちりした双尻は割られ、股間を裂かんばかりに開脚させている。
 中心のサーモンピンクの襞を肉茎のような管が抉っている。ぬかるんだ地面を掻きまわすような音がして、管が出入りする度に、泡だった液が零れ落ちた。
 筒を咥え露を吐き出す なほ姉の充血した場所に、さな姉が唇を這わせる。白濁した汁を舌で掬いあげ、鼻を鳴らして啜る。繰り返し管が吐き出した粘液と、なほ姉の蜜が混じりあっているだろう汁を。

 さな姉自身も体に管を受けいれ、時々ひきつったように腰を揺らしている。そのお尻に挿しこまれた赤いチューブが、ぬるっと抜け落ちた。開ききったお尻の穴から、たらっと雫がしたたる。そこにあてがわれる傘の張った怒張。男のひとの性器。
 汁を振りまく沢山のミミズを見た後では、ひどく珍しいもののようで、航さんのモノにわたしはじっと目を凝らす。

 航さんには、誰よりも沢山のミミズが群がっていた。
 全身を愛撫するように這う管たち。耳の穴にも細長い鞭状のが潜りこんでいるし、乳首には管の先が吸盤のごとくへばりついている。航さんの肌には、吸いつかれ赤く変色した場所が幾つもあった。
 固くそそり勃ったモノには螺旋状に絡んでそれをしごき、亀頭には管の先端がしっかりと食らいついていた。お尻にも管を挿しこまれ、何度も白濁した液体を噴出している。
 恍惚とした表情で快楽に身を任せる航さん。わたしの知ってる航さんとは別人で。

 航さんのモノが、さな姉のお尻に潜りこんでいく。ミミズ野郎の分泌物でぬめっているそこに苦もなく侵入する。白いお尻を鷲掴みにし、ぐいぐいと突きこんだ。
 こめかみに汗粒を浮かべながら腰を振っている航さんも、四つん這いになり背を仰け反らせて喘ぐ さな姉も、管を口いっぱいに頬張って体をバウンドさせてる なほ姉も、目の前にいるのに皆みんな遠い存在に見えて、とても、とても寂しい。

 三人とも体中をべとべとに汚し、穴という穴を塞がれ体液を飛び散らせ、体を震わせている。言葉らしきものを発している人らしいものは、どこにもいない。
 リビングで見たときより、ミミズの本数は何倍も多くなり、太さも自在に変化している。部屋の中は、管がのべつまくなし撒き散らすミルク色の液体で、吐き気をもよおす臭気に満ちていた。
 足の間が冷たい。濡れたぱんつが気持ち悪い。
 おしっこを漏らし呆けて座りこんでいる、わたしに気づく人も、誰もいない。





 いや、いた。
 わたしの方を振り向いたのは、航さんでも、なほ姉でも、さな姉でもなくて。


 ベッドの上で、三人の様子を見守っている金髪の女性は誰だろう。
 その人が、冷ややかな顔でこちらを向いた。


「やはり……お前には見えているのか」
 低いよく通る声が響いた。
 それが金髪美女の声で、「お前」とはわたしを指していると理解するのに、三秒ほどかかった。
 部屋の中では相変わらず、航さんや なほ姉、さな姉が、口やアソコは言うに及ばず、全身をミミズに絡めとられ、声を上げている。ぬちゃぬちゃした音もひっきりなしで。
 よく見るとミミズの管の根元は、金髪セクシー美女の、お尻のあたりに繋がってる……みたい。
 金髪のお姉さんは軽く眉をひそめると、手の中にあった小さな機械のスイッチを押した。
 パシュッ。
 閃光が走るとミミズ達が彼女から分離する。こちらに歩いてくる彼女は、女のわたしでも ごくっと生唾飲みそうな、出るとこ出ているメリハリのきいたボディライン。すらっとした足を見せびらかすような黒革のタイトなミニスカート。同じ素材のジャケットではちきれそうな胸を包み、くっきりした胸の谷間を覗かせていた。
「私が見えるのかと、聞いている」
 なに、このひと……すっごく偉そう。見えるに決まってるじゃない。
 黙ってこくこくと頷く。
 この女性をわたしは見たことがある。リビングでミミズ野郎をペットのジェニーと紹介された時、ほんの一瞬だがジェニーは確かに金髪美女だった。
 ミミズ野郎はジェニーで、この人もジェニー……あれ? わたしの頭、どうかしちゃったのかしら。
「実乃里……といったか。面白い。地球人の中にも、見える奴がいるとは……」
 そ、そばに来るなあ!
「怖がらなくていい。危害は加えないから」
 細長い指で、わたしの顎に手をかける。
「お前をもっと詳しく調べてみたいんだが……今日のところは時間切れだな。必要な調査は済んでしまったし」
 わたしのことを地球人だとか、調査だとか……このひとは電波きちゃってる変な奴か、それとも。じっと見ていると、ジェニーの深く蒼い瞳に吸いこまれそう。
「調査って何……んむっ!」
 いきなり唇を塞がれ、驚く間もなくぬめっと舌が割って入った。ざわざわと口蓋が舌で嬲られる。その動きに背筋がぞくっとする。ジェニーの舌は思いのほか長いようで、喉奥ふかく入っていくのだ。
「んふー、んーーーっ」
 長いながいキスに息が苦しくなる。歯の裏側や歯茎を撫でる柔らかい舌、突きこまれるように口の中を蹂躙する舌。気持ちいい。気持ちよくて頭の芯が痺れ……ヘンだ。
 どうしてジェニーの舌は、いっぺんに色んな事ができるのだろう。
「ぷはっ!」
「どうか……したか?」
 慌てて唇を剥がすと、ジェニーは面白そうにわたしを見おろしている。
「舌を、見せてよ」
「こうか?」
 あっかんべーをするように、舌をぺろっと出した。赤い舌。普通の舌だ。
「そんなことより、着替えたほうがいいな。それでは風邪をひくだろう」
 わ、忘れてた……大人になってお漏らしなんて、恥ずかしすぎるっ。
「たしかクローゼットの中に、お前にも着られそうなものがあったはず。ああ、これだ」
 何もない空間に、航さんのものらしい薄手のズボンが出現した。驚くべき事態なんだけど、あまりに色んな事がありすぎたので、感覚が麻痺している。
「はける下着はなさそうなので、諦めてもらおうか」
 シャワーを浴びたいと思った。お漏らしもだけど、さっきのキスで股間が別のものでぬるっとしている。
「それともお前にもガルムが必要か」
「ガルム?」
「さっき私から切り離したモノだ。下等生物だが操りやすい」
 ミミズ野郎のことか。
「そんなの要らない!」
「嘘つきは嫌われるぞ」
 冷えきった足の間に差しこまれたジェニーの指が、スカートの中、濡れたぱんつをめくって忍びこんだ。足を閉じる暇もないほどの早業。
 陰毛を掻き分け、濡れた襞をなぞられる。でもなぞっているのは指先じゃない。もっと細くてざわめくモノがひくつく場所を撫でている。
「んっ! ジェニー、あなたは人間じゃ……ない……の?」
「地球人を人間というなら、その範疇には入らない。組成さえ変えなければ、形態など私には自在だ。驚くにはあたらない」
「くはっ」
 指先が入り口に沈んだ。指の太さだったものが、中に進むにつれ膨らんで内部を埋めつくす。それがゆっくり動き始める。
「はふぅ」
「そう。素直なのが一番だ」
 埋めこまれた指が抜き差しを激しくする。擦りあげられる内壁。粒々したものがわたしの中を引っ掻いている。
「んぁ……はっ……あはぁ……」
 今日はじめて会った得体の知れない奴に、大事な場所をいいように弄られちゃってるのが、何とも情けない。
「無駄な思考回路は捨てたほうが楽しいぞ。実乃里の鳴く声は……可愛いな」
「くひぃ」
 耳元で囁くジェニーの声。舌が耳の中に入ってきて、ありえないほどずっと奥に舌先がそよいでいる。
 気持ちいい。耳の中、奥のほう、舐められるの気持ちいい。体の奥を、頭の中をとろとろに溶かされちゃって……わたしが、融けてなくなり……そう。
「ぁふ……」
 ずぅんって、あそこの奥を揺さぶられる衝撃。最初入ってきたのは、ジェニーの指だったはずなのに、中にあるものがどんどん変わっていく。何かが、とっても小さな赤ちゃんの手みたいなのが、わたしの子宮の入り口を掴んでいる。きゅっと掴んで揺さぶって、お腹の中にずしんと響く。内臓を掻きまわされてるみたいな刺激。
「ひぃぃん……いやぁ……すごい……よぉ」
 お尻の穴に、ざわざわと何かが這う。そのうち一本がするっと中に潜った。
「ひゃ」
 ずるっ、ずるっと潜るにつれて次第に膨らみ、総毛だつほど体が震える。腸の中をうねうねしたものが逆流する。
「危害は加えないといったはずだ。感覚を開放しろ」
「はっ……ぁんっ……く、くぅぅ」
 意志と無関係に体がびくびくする。
 胸元がすーすーした。セーターとブラを一緒にめくられたらしい。乳首が固く勃起してむず痒い。ぴんぴんになった乳首を指先が摘みあげる。こよりみたいに細く捻られ、引っ張られて痛い。痛覚に近いのにびりっとして気持ちいい。
 ぴりぴりぴり。
 痺れが全身を包む。胸から耳からアソコから、お尻の穴までも。
 頭の中が、お腹の中が攪拌されて、どろどろになっていく。
 感じることだけしか、できなくなって。
 わたしがわたしでなくなっちゃう気持ち。
 人でもなくて、ぐちゃぐちゃに体を掻きまわされるだけの存在。
 ぶよぶよになった肉のカタマリみたい。
 ぴいん……ぴいん。
 何かが引っ張られ押し潰されて弾かれる。
 くひぃ。気持ちよすぎる。
 広がっていた肉塊が、くるくる渦を巻くネズミ花火みたいに、高速で回転する。
 ぎゅうぅ、きゅう。内側に小さく縮まっていく。これ以上ないくらいに小さく。
 キモチイイがたくさん詰めこまれて、きゅうっと。
 うわぁぁぁ……イッちゃうよう!!





 気がついたときには、リビングのソファの上に寝かされていた。
 体はプールでしこたま泳いだ後みたいにダルダルで、頭はぼんやりしてた。なんで航さんのうちにいるのか、それすら忘れてて。
 何故だか大きめの男物のズボンをはいている。わたしのスカート……は?
 途端に記憶がフラッシュバックして、真っ赤になった。ジェニーは、航さんは、なほ姉・さな姉はどこに……。
「目が覚めたようだな」
 口元にシニカルな微笑を浮かべ、ジェニーが立っていた。
「他のものなら心配いらない。ガルムは回収しておいたし……あれだけよがり狂ったのだ。しばらくは眠り続けるだろうがね」
 ふらつく足でジェニーのそばにいく。指差された部屋の中には、三人が折り重なるようにベッドで眠っていた。ミミズ野郎は跡形もない。充分な換気がされたのか、生臭い匂いすら消えていた。
「なんでわたしにはジェニーが見えて、他のひとには見えないの?」
「さあな」
 両手を大きく広げて、説明不能というジェスチャー。
「だが、ガルムの匂いを嗅ぐと大抵の人間は発情する。特にガルムの体液に触れたら効果は絶大だ」
 ああ、それで。あんなに嫌がってたなほ姉が、ころっと篭絡されちゃったんだ。
「じゃ、怒ったフリして さな姉にヘンな汁を飛ばしたのも、わざと?」
 答える代わりに鼻の頭に皺を寄せて、ニヤリとする。
「実乃里には、それも効果がなかったようだがな」
 ジェニーが小さな銀色に光るものを、手に取ってかざした。
 パシュッ。閃光がゲストルームに広がる。
「今のは?」
「事後処理だ。私にまつわるすべての記憶を消去した」
 古臭い映画みたいなセリフだ。
「じゃあ、わたしの記憶も消されちゃうんだね」
「そのつもりだったが、予定を変えた」
「へ?」
 これ以上、何をしようというんだろう。
「お前も連れて帰りたくなったのでね」
 えーーーーーっ!
 拉致監禁されて、頭の先から足の先まで研究対象にでもされるのか、わたし。
「な、な、なんで」
「実乃里が気に入った」
「う……」
 うっすらと微笑むジェニーの表情からは、心のうちが読み取れない。
「さて、本当に時間切れだ。残念だが実乃里、いったん失礼するよ」
 最後にふっと唇が触れて、すうっと煙のようにジェニーの姿が目の前から消えた。
 狐につままれたわたしを、ぽつんと残して。
 笑いだけ残して消えるチェシャ猫みたいに、クール・ビューティなジェニーの微笑みが、わたしの脳裏に刻まれた。









 そして今夜の三姉妹会議の話題は、三人まとめて航さんの家に同居してはどうかってこと。
 いまだに夢だったんじゃないかと思ってしまう、あの日の出来事から約一ヶ月が過ぎている。夕食後のコーヒータイム。



「それでね、皆で一緒に暮らせたら楽しいのにって、航さんがいうんだけど」
 目が点になる爆弾発言をかましたのは、さな姉である。
「そうなれば、誰かひとりを選んでもらう必要もないわね。名案……かも」
 なほ姉、どこが名案なんだよ。
「わたしたち皆、航さんが好きな訳だし」
「彼も三人とも好きだし」
「「じゃあ、決まりね!」」
 なほ姉・さな姉の声が、きれいにハモった。
 ちょっと待ってってば。
「一度うちに帰って、お父さんたちに相談したほうが……」
「水尾家と繋がりができるなら良いことだって、お父さんいってたわよ」
 そんなぁ!



 ひとつ、ふたつ、みっつ……お気に入りのカップをかさこそと紙に包んで、引越しの準備をしている。準備といっても衣類さえ詰めこめば、いいだけなんだけど。
 うーん、やっぱり気が進まないなあ。
 航さんの事は好きだし、彼もわたしたちを大事にしてくれる。でも、望んでたのはこういうカタチじゃない。
 女の子にとって、十把ひとからげに愛されるって、ぜんぜん嬉しくないっ。
 航さんにそういったら、「三人それぞれに大好きなんだよ」って。とほほ。


 そして、衝撃的すぎて忘れられない、あの出来事。
「ジェニー、どこ行っちゃったんだろう……」
 ふう。荷物をまとめる手が止まって、また溜息。
「呼んだか?」
 振り返ると、腕組みしてキッチンに寄りかかって、微笑んでいるジェニーの姿。こぼれ落ちる金髪はそのままに、今日はクリーム色のスーツ姿だ。
「ジェニー!!」
 どうやって入ってきたのとか、今までどうしてたのとか、聞きたい事が山のようにあったけど、分厚いカバーをかけたみたいに涙が盛り上がってきて、ジェニーの顔すらよく見えなくなった。
 どうしてだか、涙がとまらない。
 手を伸ばしたジェニーが、ゆっくりゆっくりわたしの頭を撫でた。
「すごい有様だな。これから引越しか?」
「そのつもりだったけど……たった今、中止にしたの」
 両腕でジェニーの首に抱きつくと、シニカルに口元を歪めた紅い唇に、わたしの唇を重ねる。どこから現れたのか、ジェニーの肌が少し冷たい。
「今日は熱烈歓迎、だな」
 唇を離したジェニーが呆れたようにいう。
 欲しかったのは、わたしだけを見てくれる恋人。
 たとえその人が、得体の知れない怪しい奴だったとしても。
「ねぇジェニー。まずは自己紹介から、はじめましょ?」





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