そして今夜の三姉妹会議の話題は、三人まとめて航さんの家に同居してはどうかってこと。
いまだに夢だったんじゃないかと思ってしまう、あの日の出来事から約一ヶ月が過ぎている。夕食後のコーヒータイム。
「それでね、皆で一緒に暮らせたら楽しいのにって、航さんがいうんだけど」
目が点になる爆弾発言をかましたのは、さな姉である。
「そうなれば、誰かひとりを選んでもらう必要もないわね。名案……かも」
なほ姉、どこが名案なんだよ。
「わたしたち皆、航さんが好きな訳だし」
「彼も三人とも好きだし」
「「じゃあ、決まりね!」」
なほ姉・さな姉の声が、きれいにハモった。
ちょっと待ってってば。
「一度うちに帰って、お父さんたちに相談したほうが……」
「水尾家と繋がりができるなら良いことだって、お父さんいってたわよ」
そんなぁ!
ひとつ、ふたつ、みっつ……お気に入りのカップをかさこそと紙に包んで、引越しの準備をしている。準備といっても衣類さえ詰めこめば、いいだけなんだけど。
うーん、やっぱり気が進まないなあ。
航さんの事は好きだし、彼もわたしたちを大事にしてくれる。でも、望んでたのはこういうカタチじゃない。
女の子にとって、十把ひとからげに愛されるって、ぜんぜん嬉しくないっ。
航さんにそういったら、「三人それぞれに大好きなんだよ」って。とほほ。
そして、衝撃的すぎて忘れられない、あの出来事。
「ジェニー、どこ行っちゃったんだろう……」
ふう。荷物をまとめる手が止まって、また溜息。
「呼んだか?」
振り返ると、腕組みしてキッチンに寄りかかって、微笑んでいるジェニーの姿。こぼれ落ちる金髪はそのままに、今日はクリーム色のスーツ姿だ。
「ジェニー!!」
どうやって入ってきたのとか、今までどうしてたのとか、聞きたい事が山のようにあったけど、分厚いカバーをかけたみたいに涙が盛り上がってきて、ジェニーの顔すらよく見えなくなった。
どうしてだか、涙がとまらない。
手を伸ばしたジェニーが、ゆっくりゆっくりわたしの頭を撫でた。
「すごい有様だな。これから引越しか?」
「そのつもりだったけど……たった今、中止にしたの」
両腕でジェニーの首に抱きつくと、シニカルに口元を歪めた紅い唇に、わたしの唇を重ねる。どこから現れたのか、ジェニーの肌が少し冷たい。
「今日は熱烈歓迎、だな」
唇を離したジェニーが呆れたようにいう。
欲しかったのは、わたしだけを見てくれる恋人。
たとえその人が、得体の知れない怪しい奴だったとしても。
「ねぇジェニー。まずは自己紹介から、はじめましょ?」
Back ―― fin.