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 マシュマロ



――― 2 ―――



 嘘ばっかり。負け惜しみでしょ、それ。くすくす笑いながら、頬をすり寄せる。
「あ、笑ってますね。恵さんだって、言わなくてもわかったでしょう? だからおんなじです」
 そうだね。でも囁く声が耳にくすぐったくて、あたしはまた少し身じろぎをしてクスッと笑った。抜け殻みたいなシュラフの上に、ふたりで重なりあって倒れていった。
「やっぱり言ったほうがいいんでしょうね。大事なことは」
 言われたいのかもしれない。いつだって、何度でも。そうしたら安心できる?
「ううん、いらない。わかるから」
 言葉はなくても、見ていたらきっとわかる。
「じゃあ、もう喋っちゃダメですよ」
 そう言ってあたしの唇をふさいだ。始めは啄ばむように、それからじっくりと犯すように。溝口が欲望を持ったひとりの男だってことを、改めて思い知らされた。
 舌が泳いで口の中で遊ぶ。つついて掬って絡んで。首をふって逃げることもできず、呼吸するのも忘れて、あたしは溝口に唇を吸われていた。
「ふあっ……はぁ……」
「さっき驚かされたから、お返しです」
 唾液が透明な糸を引いていた。それをぬぐおうともせずに、しゃらっと言った。こいつがこんなエッチなキスをするなんて、思わなかった。驚きがまたひとつ。
 舌がじんと痺れ、頬が熱い。その頬を大きな手が包んだ。首筋から鎖骨、胸へと、手がゆっくりとたどる。目を閉じると触れあっている部分に、意識が集中する。息を静かに吐いた。
「寒くない、ですか?」
 緊張して体が震えていたらしい。溝口の顔を確かめるように瞼を開けた。心配そうに覗きこんでいる視線と絡む。
「だいじょうぶ」
 はじめてでもないのに、どきどきしていた。照れ隠しに、胸のあたりで止まっていた溝口の手を上からぎゅっと握った。
「抱きしめたときに思ったんですけど」
 やわやわと服の上からあたしの胸に触れながら、語りかける。手を滑らすとセーターとシャツを一緒にまくりあげる。
「恵さんってマシュマロみたいですよね。柔らかくて……甘い匂いもする」
 犬みたいに顔を近づけて胸元でくんくんした。ブラだけになった胸が、溝口の目の前で露わになっている。
「そ、それは石鹸のかお……あ……」
 そのまんま顔中つかってすりすり。谷間に顔をうずめたり、右側をほっぺたで撫で回したり、反対側に行ったり。手で触れられるとばかり思っていたあたしは、くすぐったいようなじれったいような気分になっていた。
 溝口の顔が左右に振れて、鼻筋がブラの中でぴんと尖ってしまっている乳首を弾く。
「はぁんっ」
「だから食べたくなっちゃうんですよね」
 そう言ってるわりには食べてくれない。閉じた唇でブラの上をまるくなぞっている。
「んんっ……ん……ふぅ……」
 求めるような甘い鼻声になった。体の奥にある小さな火種が疼きはじめる。
 違うの、わかって。胸の頂きに触れてほしくて、溝口の肩をつかんでいる指に、つい力が入る。と、溝口が顔を上げ背中に手を伸ばして、ブラのホックをはずしにかかった。
「締めつけたまま寝たら、体に悪いですよ」
 そういう問題じゃない。でもさりげなく背中を浮かして協力する。ホックをはずされた瞬間、開放された乳房がぷるんと揺れた。
 また溝口の顔が近づいて舌が伸びた。ブラで縁取られた素肌の部分をペロペロと舐める。
「ん、んっ……みぞぐちぃ……」
 苛立ちが最高潮に達していた。のしかかられた体の下で、足がもぞもぞと動く。物足りなさから足を擦りあわせた部分の刺激すら、手繰り寄せようとしている。はしたない女になってしまったような気がする。
 どうしました? と言わんばかりに、溝口が目だけであたしの顔を見上げた。柔らかく微笑んでいるような瞳。
 こいつ……もしかして、あたしの反応を楽しんでるの?
「莫迦っ」
 視界を遮るように、その顔をぱふっと胸に押しつけた。感触を味わうように、溝口はそのまま動かない。大きく息を吸って、あたしは自分の負けを確信した。
 胸の上に乗っかってるだけになったブラを、そっと引っ張り上げる。暗がりでもつんと立った乳首が見える。唾を呑みこんで固まっている溝口に、
「…………食べて…………」
 小さく呟いた。


 チュッ、チュッ、チュッ。
 溝口はいただきますも言わず、テントの中に音を響かせて、胸の尖りに吸いついた。
「あ、あぁん、ふぁんっ!」
 待ちかねた刺激に痺れて、体がびくびくと震える。頭の芯がくらくらした。
 溝口の体が、足の間に割ってはいる。重なって押しつけあった体の間に、熱い昂ぶりがあった。服越しに、中で膨れ上がっているはずの敏感な芽を、圧迫する。唇はあたしの胸に吸いついて、くちゅくちゅと舌で乳首を転がしていた。
「やっ、やぁ……やめ……あんっ!!」
 ちゅぱっと音を立てて、顔を離す。
「『食べて』っていったの、恵さんですよ」
「……いじわる……」
「そうやって怒ってるのが、僕は好きなのかもしれない」
 拗ねている唇に軽くキスをくれると、
「他に食べて欲しいところはありますか?」
 耳たぶを噛んで、溝口は囁いた。かあっと顔が火照るのが自分でもわかった。


「いえない…………いわないっ」
 なんか今、墓穴を掘ったような気がする。それも深いやつ。
「希望がないようなら、勝手に好きなとこから食べちゃいますが」
 舌先がちろちろっと耳をくすぐった。舐める音が耳の中にこだまして、からだ中の力が抜けいていく。それだめ、違反。
 溝口イコール小動物・リス説を、頭の中で訂正する。溝口イコール犬、決定。
 くちくち、じゅるじゅる。
 だめだったら。耳がぐしょぐしょになる。
「ふぁ……ふんっ……ふぅ……」
「かまいませんか?」
 いちいち聞くな、ばかもの。言葉にならないから、溝口の背中に爪をたてる。
「んふっ……ひぃん、ふーーーっ」
 耳の穴が唾液でいっぱいになって、満たされてしまったような湿った感覚。こいつの唾液の中には、あたしを溶かすへんな液体が仕込まれている。きっとそうだ。
 舐める音がとまった。濡れた耳がスースーする。ぼんやり開けた瞼のむこうに、あたしを覗きこんでいる溝口の、お預けくらった犬みたいな顔。
 なんだっけ? さっき何か聞いてたよね。かまいませんかって。
 いいよ。急がないとあたし、溶けてカタチがなくなってしまうから。
 蕩けた意識でコクコクと頷く。


 溝口の顔が離れていった。パンツのボタンがはずされ、チャックを引き下ろされる気配。脱がされてショーツ一枚で、膝まであらわになる。素肌が晒されて少し寒い。
 脇腹に熱い吐息がかかった。太腿を撫でまわす手から、溝口の体温があたしに伝わる。呼吸がテントの中に重なって、ふたりだけのとても静かな夜。
 茂みをいだいた恥丘を、布越しにそっと大きな手が包む。気持ちいい。また溶ける。太腿の付け根をつかんで、両足がわずかに開かれる。しっとり湿ってはりついた布地に、感じる吐息。
 吐息??
「やっ、やあ。それだめっ!」
「だめと言われても、やめません。許可はもらいましたから」
 ず、狡すぎる。
 足が動かせない。膝まで下ろされた服の上に、溝口の体が乗っているからだ。
「ほんとにだめ……」
 吐く息がもっと間近に感じられる。そのせいで濡れた部分が冷えて、恥ずかしさを増す。泣きそうになって なんとかどかそうと、溝口の頭に手を伸ばす。
「ごめん……恵さん」
 両手をつかまれた。強くもなく弱くもなく、ごく普通に。
 強く掴まれていたら、思いきり暴れていただろう。弱く掴まれたら、振りほどいていたはずだ。どちらもできなかった。
 溝口の暖かい手が伝えていた。あたしのそこを食べたいって。
 ごくん。
 『いいよ』のかわりに、きゅうと手を握りかえす。
 柔らかいものが押しつけられる。あたしの濡れたところと溝口の唇が、布越しにいまキスをした。


「ふぁっ!!」
 ほんのちょっとの刺激に体が跳ねた。甘い痺れが全身に広がっていく。
 ちゅうちゅうと、溝口の唇があたしを啜る。しみ濡れた布地を唾液で汚して、吸いとるように味わっている。吸われて火がついて熱くあふれる。
 もぞもぞと動いて、足から服が抜かれた。自由になった足を、やっぱり閉じてしまう。靴下だけになった足を、溝口はゆっくり持ち上げて開いた。
「柔らかくてすべすべ……」
 太腿を撫でまわして、大事なところに再び顔が近づく気配。ぐっしょりと濡れた下着を身につけて、溝口の舌が触れるのを待っている。
 恥ずかしいけど かまわない。そんなにあたしが欲しいのなら。
 溢れる場所に軽く口づけて、布の壁をものともせず入り口を舌が抉る。
「あんっ……あ、あぁっ!!」
 がくがくと体が震える。押しつけられた鼻梁が敏感な部分をくすぐって、蕩けはじめた気持ちを少しずつ高みへと持ち上げていく。
 顔全体でこするように、鼻先と舌が割れ目を上下になぞる。
「いやっ! だめ……あぁあ……」
 恥ずかしいのに気持ちよくて、溝口の頭を抱え、指先で髪の毛をかきまわす。
 湿った布地が片寄せられて、そこに舌が伸びた。
「やっぱりマシュマロですね、恵さんは。柔らかくて、中がこんなにとろけてる」
 溝口の言葉と啜られる音が、あたしの羞恥を煽っていく。
 だめ、言っちゃだめ。
「はぁっ!! んっ……んっ……」
 電流のような刺激が走った。唇を噛み締めても声がもれる。
 蜜を啜りあげた舌が、開かれた場所を上へとたどる。
「くぅっ…………」
 膨れあがった芽を、下からつるりと舐められて、あたしは高い場所に打ち上げられた。



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