癖
――― 2 ―――
期限のない約束なんて、実行されるかどうかは曖昧なものだ。ましてそれが、ベッドの中で交わされたものならば。
『あなたに……見せてもいい』
そんな会話など無かった事にもできる筈なのに、自分で出した答えに縛られていた。
排泄行為とは、無防備でごく個人的なものだ。他人の目に触れる機会など、まずあり得ない。もし放尿を見せてしまったら、その後も、今までと同じでいられるのだろうか。何か大切なものを捨ててしまうような気がして、一度は定まりかけた気持ちがグラグラと揺れ動く。
男が本気で考えているかどうかを、会話の端々や行為の最中に、私は探ろうとした。
でも、なんて聞いたらいい? どう切り出したらいい?
それを考えると、心が怯えて縮こまってしまう。
「どうした? 何か困ったことでもある?」
逡巡が顔に出てしまっているのだろう。不安げな私の表情に、男が反応する。
「ううん、別に」
約束を覚えているかどうか、聞けるはずも無かった。口に出して訊ねることは、そんな願望を持っていると自ら認めてしまう事になる。
鳶色がかった男の瞳は、覗きこんでも何の答えも映し出さない。それでも見せる機会はいつか必ずあるという、確信ばかりがどこかにあって、私の気分を落ち着かなくさせる。
足の届かない水面に浮かんでいるようで、心はいつまでも宙ぶらりんだった。
放尿を見せるのは露出の一種だと考え始めたのは、この時期だ。見られる事を想像するだけで濡れてしまった私には、そんな隠された願望があるのだろうか。
ネットで見る露出プレイの体験談は、パートナーに命じられて下着をつけずに外出し、言葉で辱められたり、周囲の反応を伺ってプレイに反映したりする。一人きりで危うい格好をして、ぎりぎりのスリルを楽しむ露出は、告白文を読む限りなら、ひどく興奮を覚えた。
わからないなりに、小さな実験をもうひとつしてみよう。それもたった一人で。
スリルはそのままリスクでもあって、どこまで安全に試せるかが、こわごわと一歩を踏み出すための条件だった。きわどい格好などしなければいい。私が感じたいのはごくささやかな興奮で、見知らぬ誰かを挑発するつもりは無いのだから。最初のハードルは、低いほうがきっと飛び越えやすい。
何十年かに一度、流星群が接近するというニュースを見て、ひとりきりの冒険をするのは、その日に決めた。昼間より夜のほうが、恥ずかしさが紛れそうだと思った。
夜半にシャワーを浴びた。流れ星を見るには日付が替わる頃がいいと聞き、タイミングを合わせて準備をする。バスタオルを使った後、いつものように下着をつけようとして、手を止めた。
そうか、必要ないんだ。
シャツに手を通すと、素肌を滑らかに走る生地の感触が、いつもと違って新鮮に思える。乳房に布が触れ、その先端を擦るわずかな刺激に、皮膚がぴりりと張りつめた。
ボトムに何を着るか。この時まで私はずっと迷っていた。スカートを選んで無防備な股間を外気に晒す、その決心がどうしてもつかない。元より危険は回避するつもりだった。実験は小さいどころか極小レベルになりそうだ。諦めにも似た気持ちで、ジーンズのボタンを留めた。
鏡に映して出来上がりを眺める。なんの変哲もない普段着。膨らんだ胸の頂点で、乳首だけが興奮を顕わすように尖っていた。白いシャツに透けて、うっすらと乳輪あたりの、色素の違いまで見てとれる。下腹部や胸元を隠す、たった一枚の薄い布が無いだけで、こんなにも心許ない気分になるのが不思議だった。
ジャケットを羽織って外へ出る。傍から見たら、ブラやショーツを着けていないとは誰も気づかない。ひとりだけで小さな秘密を抱えている。そう思うと、恥ずかしさとは別の昂揚した気持ちが湧き上がり、体が少し熱くなった。
もう一つの目的を忘れそうになる自分を叱咤して、自転車のペダルに足をかけた。ゆっくり空を見上げていれば流星群は苦もなく見えるらしいが、より条件の良い、街灯の少ない場所まで行こうと思ったのだ。車道を避けて川沿いの土手を選ぶ。同じように星を見に行こうとしているのか、深夜にもかかわらず対岸には人の姿が見えた。
ペダルをグッと踏みこむと、違和感があった。股間の、ちょうどスリットのあたりに、デニムの縫い目が当たる。普段は気にならない生地のごろつきが、陰部を刺激する。サドルに腰を落とすと、その感覚はいちだんと増した。自転車を漕ぐ事によって固い布の肌触りは左右に振られ、敏感な部分を震わせるのだ。路面の僅かなでこぼこがサドルに伝わり、割れ目に隠れた蕾が圧迫される。
ガクガクと段差を乗り降りすると、ぐりっと花芽が押し潰された。漏れそうになる声を必死で耐えた。体の中で小さな火花が散り、じわりと蜜が溢れた気がした。慌てて急ブレーキをかける。肌寒いくらいの気候だが、額に汗を掻いていた。
息を整えていると、正面から小さなライトが近づいてくる。二輪車と歩行者しか通れない、幅二間足らずの狭い道である。立ち止まっている私を不審に思ったのか、自転車に乗った人影が減速する。今この瞬間にも、デニムの奥では濡れているかもしれないと考えると、耳の付け根まで赤くなっていく。
川面を眺めるフリをして顔を背け、近づく自転車をやり過ごそうとした。途端に風をはらんでジャケットが翻る。秋の冷気が懐に忍びこんで、シャツの上から胸の尖りを刷くように撫でた。暗い夜道なので人に見咎められる可能性は少ないが、もしかしたらという一抹の不安がある。ドキドキする胸の鼓動は収まらず、服のボタンを指先できつく握り締めた。
肌が粟立つのは、寒さのせいばかりではなかった。シャツの中で乳首は固くしこり、恥ずかしさで居たたまれない。周囲の人に気づかれてしまったらという興奮より、今はひとりぼっちだという危うさの方が勝った。
何事もなく自転車が通り過ぎていっても、暫くは固まったようにその場所に立ち尽くしていた。自分からやってみようと思ったのに、傍に居るべき人がいない心細さで、私の背中は震えていたのだ。
時折、薄雲に遮られながらも、夜空に細筆を走らせたような星々のショーを眺めた。ぼんやり宙を見上げているうちに、得体の知れない昂奮も、心細さも、次第に薄まっていく。遠目でそれと分かる事のない露出なら、普段と何ら変わりはないのだ。
空の闇にひときわ大きな火球が走り、向こう岸から「見えたー!」と歓声があがった。それを潮に引き上げる事にした。冷えきった手足を軽く曲げ伸ばしして、護岸ブロックから立ち上がる。
自分には、さして強い露出願望も無いとわかって、どこか安堵する気持ちもあった。望まれるなら見せることは厭わない。だがそれは、あくまで受動的なものだ。もし、男が望んでいるなら叶えたい。相手次第なようでいて、自分の殻を破る言い訳を他に求めている。決して、慎ましやかでも羞恥心が強いのでもない。私はズルイのだと思った。
雲の切れ間から傾いた三日月が覗く。唇の端を吊り上げ、こちらを嘲笑っているような、そんな形の月だった。
迷おうが悩もうが、ぼんやりしていようが、時間は同じスピードで過ぎていく。男は放尿を見せてと求めた事など、欠片も気に留めていないように見える。私はと言えば、掲示板への書き込みも、下着をつけずに外出したのも、記憶の彼方に押しやりつつあった。それでも尿意と一緒に訪れる癖が、忘れた頃に現れては、あの約束を思い出させるのだ。
最後に背中を押したのは、ほんの小さな偶然だった。
ドライヤーの熱風が額を撫でていた。髪の毛を乾かしスイッチを切ると、周囲の空気が急に冷えこんだ気がする。バスタオル一枚巻いただけの姿で、私はふと尿意を感じた。
トイレの前まで来ると、ドアがすっと開く。出てきた男と目が合って、互いに「あ」という顔をした。
「入るのか?」
「うん」
すれ違ってトイレに入る。それだけの筈だった。ごく自然にドアノブを引く。
扉は閉まらなかった。男が手で押さえていた。
タチの悪いイタズラをしている。そう思って軽く睨みつけるつもりが、男の視線にたじろいだ。薄く笑みを浮かべ、ひたりとこちらを見つめていた。抗議の声を上げようとして、何故かしら言葉が出なかった。
やめてよと、口を開こうとした時、男はドアの内側に肩先を入れた。
「見せろよ」
男が呟いたのは小さな声だったのに、耳に届いた。
「な……何を?」
聴こえないフリをして、聞き返さなければ良かったのに。
「約束したろう? おしっこする所を見せてくれるって」
私の顔は蒼ざめているかもしれない。それとも熱くなっているだろうか。心細く、膝も震えて、どちらだか分からない。
男が半歩進んだ。一畳程度の狭いトイレは、二人が立っているだけで一杯になる。男の手が、軽く私の肩を突いた。押されてストンと便座の上に座りこむ。目の前に立つ男の姿がいつもより大きく、まるで黒い影のように見えて、威圧された。
「じゃあ、見せてもらおうか」
間近に迫ってきた唇が、耳元で囁いた。
黒い影が動いて、巻いていたバスタオルを事も無げに剥ぎ取った。この場所は寒い。裸にされた身体が小刻みに震える。
そうだ。あの時たしかに、約束……したんだ。否とは言えない気がした。
膝に両手を置いたまま、こくりと頷いた。これから恥ずかしい姿を晒すのに、どこかで私は安堵していた。もう悩まなくていい。堂々巡りは、これで終止符を打つのだ。そう考えれば少しは気が楽になる。
「よく見えるように……」
男の手で、膝がグッと開かれた。
さっきは何に安堵したのだろう。九十度ほどに開かれた両の太腿は、用を足すには不自然な広がり方で、裸のまま便座に腰を下ろしている自分が、いっそう恥ずかしくなる。胸の鼓動が激しくなった。
「このままで。閉じるなよ」
念を押すように、男の指先がすっと秘裂を撫でた。愛撫というより、何かを促し刺激する動き。
「ひっ!」
それに呼応して、忘れていた尿意が下腹部に蘇った。寒気にも似た震えが、背筋を這い上がる。むずむずと膨れ上がるような、あの快感も一緒だった。
男は床に腰を下ろし胡坐を掻いた。よく見えるように座って視線を低くした。そんな動きだった。
イヤだ。こんなところを見せたくない。痛切にそう思った。男がどんな顔をして私を見ているのか、それすら正視できない。瞼を閉じ、下唇をきつく噛む。緊張のあまり、太腿はこわばって小刻みに揺れている。無意識のうちに膝を閉じ始めていたのか、男の手が伸び、もう一度押し開く。素肌を撫でて奥へと進み、合わさった襞を二本の指で割った。
「……やっ」
指はすぐに離れていったが、開かれたその場所に微かな風を感じた。男の吐息だろうか。それとも、見つめられ尿意を覚えて、襞がじわりと濡れ始めているせいか。目を瞑っていても、スリットを抉るように視姦されているのが分かる。頬が熱い。恥ずかしさに新たな蜜が零れた。
放尿を見せるために座っているのに、未だその決心がつかないのだ。なのに差し迫った尿意は、とば口で渦を巻いている。その刺激がゾクゾクする快感を呼び覚ます。我慢すればするほど、慄きは大きくなった。
見つめているだけの、男の沈黙が怖い。
恥ずかしい姿で感じ続けている自分が、耐え難い。
もう何処にも後戻りができないのだと思うと、暗澹たる気持ちになる。体の表面は寒々として、下腹部だけが沸々と滾った。
この場所に座ってから、何分も過ぎたように感じた。実際には数十秒だったかもしれない。ひときわ大きな波が起こり、堪えるため下肢に力をこめた。
「んっ!」
産毛が逆立ち、背中がびくんと跳ねる。ぴちょんと小さな水音がした。堪えきれずに漏れ出した、最初の一滴だった。
「や、見ないで…………やぁっ!」
きぃんと微かな耳鳴り。男の目に私はどう映っているのか。それだけが気がかりで、俯いたまま、わずかに瞼を開いた。
腕組みをし、じっと座っている姿が見える。ぎらつく瞳は、食い入るように秘部に向けられていた。そしてズボンの中央には、男の昂奮を表す明らかな膨らみがあった。
私のこんな姿を見て、この人は興奮してくれている?
顔は火照り、恥ずかしい事に変わりはなかったが、張りつめていた緊張の糸が解けた。こめかみが脈打ち、ドクドクと音を立てている。羞恥とは別の、胸の奥が熱くなる気持ち。うれしい。興奮してもらえて嬉しい。束の間、悦びのうねりが体を駆け巡った。冷え切った指先まで暖かに溶けていくようだ。
既に痺れるほど充血している襞の狭間から、温かい迸りが流れ出した。黄金色の液体が、ちょろちょろと断続的に水面を叩く。覚悟はあっても恥じらいまでは捨て去れない。放尿している間中、私は再び瞼をきつく閉じた。
排泄が済むと、それまで我慢をしていただけに僅かながらの開放感があった。男は身じろぎもせず押し黙っている。恥ずかしい姿を見せてしまって、やはり軽蔑されたのではと不安が兆す。ペーパーを手に取り股間を拭いた。習慣化している所作も、見ている人がいる前では滑稽に思えて、手の動きがどこかギクシャクした。
目が合わせられない。大事な場所を明け渡してしまったように思えて、照れくさく気恥ずかしい。男が何を想って私を見つめているのか、知るのが怖い。水を流すため後ろを向くと、胸元に男の手が伸びた。指先で乳房を撫で上げ、乳頭を弾く。
「んっ!」
思いがけず与えられた刺激に、素直に反応して背中が反る。触れられるまで、胸の尖りが固くしこっていることに、私は気づかなかった。それほどに緊張を強いられていたのだろう。続けて、男の指先がしこりを摘む。じんと痺れるような感覚が広がり、体の奥底が疼きだす。
仰け反った拍子に、体が背後の手洗いにぶつかり、鈍い音を立てた。腰の下では水の流れていく気配があって、俄かに現実に引き戻される。いま流れていったのは自分の排泄物であると。此処はそういう場所なのだと。
「やっ……やめて。嫌っ」
愛撫されて快感を得るには、あまりに屈辱的な場所ではないか。
立ち上がり、怒りを籠めて見つめ返しても、男の表情はあまり変わらない。何かに憑かれたような熱っぽい瞳が、こちらを凝視している。全てを見たと、その眼が言っているかに思えた。見る間に、唇が近づいた。
「本当に、嫌なのかな?」
囁くと、唇の表面で片方の乳首を横一文字に撫でる。まるで焦らされ続けた後のように、私の肩はびくりと震えた。暖かな唇の狭間に、膨らみの先端が吸いこまれる。口に含んだ尖りを舌先でつつき転がして欲しいと、いつの間にか期待していた。もう片方の膨らみは、掌で捏ねられている。男の指先は、器用に乳首を避けて通る。触れられたくて肌がぴりぴりと張りつめた。
「ここでは駄目。ダメだから……」
こんな所でされたくないと、私は必死で首を振り続ける。
「違うな。本当はイヤじゃない」
突起が唇から離され、外気に触れていちだんと固くなった。
「そんなこと、な……いやぁっ!」
再び咥えられた尖りが、温かくぬめった舌でくるりと嬲られる。拒否のつもりなのに声の調子は裏返り、嬌声のように聞こえた。泣きだしたいくらい嫌なのだ。だが、感じているのは否定しようが無かった。男の言葉に煽られて、体ばかりが鋭敏になっていく。
もう片方の、軽く握りしめられた膨らみの先端には、爪の先で引っ掻くような刺激が走る。漏れそうになる喘ぎを堪えて、身を捩り男に背を向けた。体の奥から熱いものが湧いて零れそうになるのを、知られたくなかった。
「こんな場所でこんな風にされるのが」
男がズボンを脱ぐ、衣擦れの音がする。
「きっと好きなんだ」
畳み掛けるように男が呟いた。トイレの扉にも、男にも背を向けて、狭い空間に逃げ場はなかった。
背筋にゆっくりと舌が這う。ぞくっと身を震わせた途端、指先で摘まれた尖りが、強く捻られた。
「はぁあっ! ……ちがう……よ」
「違わないね」
後ろから男の体が密着する。硬くそそり立ったものが、尻たぶに触れた。逃れようと思っても視線を向けた先には、白い壁と便器しかない。さっきまで自分が座っていた所。脚を開き、男に放尿を見せていた場所だ。抱えこむように回された腕の内で藻掻きながら、屈辱感に打ちのめされそうだった。
互いの体に挟まれ、押し当てられた塊は、びくびくと脈打っている。男の手でたまさか摘み上げられる乳首は、じぃんと熱を持ち痺れていた。頑なに拒む気持ちと、すぐにでも快感に酔ってしまいたくなる気分とが、せめぎ合う。目を瞑って全てを忘れ、与えられる刺激にだけ身を委ねてしまえれば、思いのほか簡単なのかもしれない。
男の指が太腿の隙間に忍び寄り、苦もなく襞を割り開いていく。静かな空間に、くちゅりと水音がする。入り口を撫でさすり、蜜壷に沈められる指先。中を掻きまぜられ、内壁を擦り上げられる感覚と一緒に、くぐもった淫靡な音が響いた。
「ひっ……あぁ……」
耳元で男が小さく「ほら」と囁いたような気がした。
ほら、濡れているよ。体は正直なのだ。こんな場所でされるのが、やはり好きなのだ、と。抵抗する気持ちが少しずつ萎えていく。
蜜を零して抜き取られた指先は、前へと進み、尿道口のあたりを穏やかに撫でた。
「ここ、おしっこした後の冷たさが残ってる」
「やっ! ……言わないで……」
ほんの少し前の、恥ずかしくてたまらない光景が、脳裡にまざまざと蘇った。羞恥に煽られて頬が紅く染まる。逃れようと身を捻ると、男の指が花芽を捉えた。雫にまみれた指の腹で、くるくると円を描くように揉む。膨らみきった蕾は、弄られる度ズキズキと疼いて、股間から新しい雫を溢れさせた。強く捏ねられると、息が詰まりそうな快感が走り抜ける。立っているのもやっとの思いで、膝が震えている。それでもこの場所で愛されたくないと、喘ぎながら私は虚しく首を振っていた。
熱い強張りが襞の内を探るようにあてがわれた。濡れそぼった襞で切っ先に蜜をまぶし、入り口を捏ねる。身を固くする暇もなく、肉茎が中にめりこんだ。
「あうっ!」
突き入れられる熱さに、くらくらと眩暈がする。男は両手で腰を引き掴み、奥まで深く抉りこんで体の動きを止めた。みっしりと隅々まで埋められている。隙間なく収まったそれが、時折びくりと震えて脈動と固さを柔襞に伝える。
「はぁあっ……」
堪らない。咥えこんだ部分が焦れたように蠢くのを、止められなかった。
「ほらね。こんなところでされるのが、やっぱり好きなんだ」
「ち、ちがっ!」
思わず夢中で頭を振った。
背中に覆い被さっていた男の体が、つと離れていく。奥深くに埋めこまれた怒張が、入り口近くまでずるりと引き抜かれた。
「あ……」
名残惜しげな声が唇をついて出た。張り出した笠が内襞を引っ掻き、反射的に食い締めようと襞がひくつく。
試されているのだと、思った。それが分かっていても疼きは収まらない。肉茎は先端の感触を膣口に残し、絶え間なく刺激を送り続ける。とろとろと蜜を零しながら、私は煩悶していた。
そんなじゃないのに。違うのに。
体が小刻みに震えるのは、どうしてなのだろう。
足りないものを追い求めて、きゅうきゅうと体の芯が何度も収縮する。腋の下を支えていた男の手が、胸の膨らみを撫でた。耐え切れずゆるりと尻を動かすと、男はわずかに腰を引いた。
塞がっていた余韻を残して、肉槍が離れていく。ぶるっと大きな震えが走る。
「ぁん……ひっ……やっ!」
胸が痛い。離れていったものが、とても、とても欲しくて。
咄嗟に腰を大きく後ろに突き出した。体が前のめりになり、崩れ落ちそうになる。
カタリと鳴ったのは、便座に両手をついて倒れそうになる体を支えた音だ。瞼を閉じて忘れようとしても、それだけは変えられない現実だった。いま自分がどんな姿でいるか、想像するのも怖い。ぼんやり浮かんだ光景を脳裡から追い払う。
微かに襞に触れた温もりが、入り口にぴたりと押し付けられた。少しずつ抉られているのがわかる。引き摺るように襞を擦り、強張りは深々と突き刺さった。
「ぁあぁぁああっ!!」
男は両手で乳房を揉み、腰をストロークさせて大きな抜き差しを繰り返す。掻き混ぜられた蜜壷は、じゅぶじゅぶと、くぐもった音を響かせた。待ち望んでいた感触に、我知らず愉悦の声が漏れた。
深く突かれる度に、便座はカタカタと音を立てる。体の内を塗り変えられたような哀しさがあった。それでも獣の姿勢で男を受けとめ、啜り泣くような喘ぎを上げて、悦びをあらわにしている。私はどこか壊れてしまったのかもしれない。
ぴたぴたと激しく、肌と肌とがぶつかり合う。最奥を突かれるのも、焦らすように浅く捏ねられる動きも、大きなうねりとなって私を追い立てる。鷲掴みにされた胸の膨らみが、掌でぎゅうと絞られた。
体の中で、小さく何かが爆ぜる。もう壊れてもいい。こんな場所で悦んでしまう自分など、肉棒だけを受け入れる、ぐちゃぐちゃの肉壷になってしまえばいいんだ。
そう考えた時、男が私の名を呼んだように思った。
「な……に……? ひゃっ……ぁあっ!」
ひときわ大きな突き。がくがくと腰が揺さぶられた。
「イっちゃうぅっ……ぁあぁ!!」
繋がった部分が、火のように熱かった。足の先まで強張り、頭の中が真っ白になっていく。熱い塊が私の中で膨らんで弾け、白濁液を注ぎこんだ。
痺れて蕩けきった体は、立っているのもままならない。脱力してくたりと膝を折った。冷たい床の上に座りこむ。股間からは、混じりあった体液がとろりと流れ出していた。
何だろう。背中が暖かいものに包まれている。男に抱きとめられているのだと気づいて、心がふんわりと柔らかくなった。先程までの荒々しい交接は夢だったのかと、つい錯覚しそうになる。
男の指先が、髪の毛をゆっくりと梳いていた。気だるく静かな時間だった。とろりと意識を失いそうになった時、男の小さな呟きが聴こえた。
アイシテル、と。
振り向いて、その表情を確かめようとした。が、そのまま引き寄せられて、男の胸板に顔を伏せる。男の顔は見えず、トクトクと規則正しい心音だけが響いていた。いま耳に届いた言葉が、聞き間違いでなければいい。そう思いながら、火照る頬をすり寄せた。
BACK ――― fin.