「あ、あのね……気づかれないかしら」
 バイクは空ぶかししながら、少し離れた場所に止まっている。若い男と小柄な女の二人連れだ。
「大丈夫でしょう、きっと」
 こんな状況で、なぜ幸野は平然としていられるのだろう。
「向こうもカップルだし、こうしてたらこっちも恋人同士に見えますよ」
 どう見えるとか、そういう問題ではなくて。
 下を見ると、膝元に丸まっているショーツは無事スカートに隠れていた。とりあえずはホッとする。
 お尻の辺りにムズムズする感触がした。薄手のスカートの上から、幸野の手が膨らみを撫でている。睨み返そうとしたが、足元がふらついた。
「爪先立ち、きついですか?」
 幸野に抱き寄せられているので、態勢自体は辛くない、けど。
 舗道に下ろされた時に、幸野のモノはわたしの中から半分ほど抜け落ちた。肉茎が中途半端に引っかかり、感じやすい箇所を刺激している。繋がりあった部分から、むず痒いような快感が生まれて、ぞくぞくするのが止まらない。
 バイクのカップルの方を見た。薄茶色の長い髪をかきあげて、女性が何か囁いている。そして二人同時に、こちらの方を見た……ような気がする。こんなところでしているなんて、まさか想像もしないだろうけど、万が一気づかれてしまったらどうしよう。
 考えただけで体の奥が熱くなる。埋められた部分がひくんと蠢いた。
 ダメだ、耐えられない。おかしくなりそうだ。
 いっそひと思いに貫いてくれとか、イかせて欲しいとか、そんな言葉が喉元まで出ていた。
「たす……けて、声……でちゃう……」
「辛かったら踵を下ろして」
 かぶりを振った。できない。踵を下ろしたら抜けてしまう。
 しっかり支えるためにか、幸野の手が腰をぐっと引き寄せた。その振動だけで、すごくやばい。体が小刻みに震えた。とろりと蜜が垂れて、太腿を伝っていく。
 幸野の手が、蜜の流れた股間を探る。繋がっている場所に触れる。露に濡れた指で、膨らんだ花芽をまさぐる。
「すごい。洪水だ」
 囁きに頬が赤くなった。じぃんとする刺激が、頭頂まで届く。指先がぬるぬると蠢き、いやらしさを煽った。
 追い上げられている。体の中にキモチイイが溜まって、もうすぐ溢れ出しそう。
「あふ……キス、して……おねがい。……あた……しのクチ、ふさいでっ」
 でないと、叫んでしまうから。
「喜んで」
 ちっとも喜んでなさそうな掠れた声で、幸野は言った。
「んふぅ」
 繋がっているのに、イキそうなのに、これが幸野と初めてのキスなんだ。おそるおそる啄むような、臆病なその唇を、わたしは貪るように吸った。
 両腕で幸野の首筋にしがみつく。あのカップルの目に、わたし達はどう映るだろう。幸野の言うとおり、恋人同士に見えるかもしれない。そう考えると胸がちくりとした。わたしは快楽に流され、何かの隙間を埋めるために。幸野はそんなわたしに痕を付けるために、こうしているのだから。
 幸野の肩が僅かに沈んだ。そして突き上げる。衝撃で全身がわなないた。
「んふぅ」
 仰け反った拍子に唇は離れ、喘ぎが漏れる。
 急に眩しい光に照らされ、バイクのエンジン音が間近に聞こえた。見られているかもと思ったら、恥ずかしさが膨れ上がる。
「んっ、ん……んーーっ」
 ふらつく足元を、幸野がきつく抱き締めて支えた。叫び出す寸前で、荒々しいキスが唇を塞ぐ。強く吸われた舌が、じんとして痛い。それに応える気力はもう残っていなかった。
 周囲の音が遠ざかり、何も聞こえなくなる。二、三度体が揺さぶられ、深く貫かれた。秘部を抉る肉茎の感触ばかりが生々しく、絡みつくように柔襞がひくひくと痙攣する。埋め込まれたモノが隙間なく膨らみ、弾ける。
 体の奥に熱い樹液を受けながら、わたしは果てていた。


「……夏目さん?」
 気が付くと、幸野が必死で呼び掛けていた。ほんの少しだけ意識が飛んでいたかもしれない。ずり落ちそうなわたしの体を、一生懸命支えている。
「えーと、その」
 こんな時に何を喋ったらいいのか分からない。体はまだ余韻が醒めず、熱く火照っていた。二人の体液が混じり合った股間は、すごい有様になっている。幸野の顔を直視できずに、視線を彷徨わせた。
「バイクはどこへ行っちゃったのかな」
「Uターンして大通りの方へ」
 答えながら目を逸らしているのは、幸野も同じだ。
「だから……」
 手を伸ばし、ゆっくりとコートのボタンを留めてくれる。
「夏目さんのイク顔を見たのは僕だけです。安心しました?」
 顔が赤くなるような事を平気で言う。もしかしたら、とんでもない奴に見込まれたのかも。
 最後のボタンがかかる前に、幸野が付けた痕、胸に散った紅いしるしを見つめた。
「もし良かったら、シャワーを浴びてコーヒーでもいかが?」
 そう呟くと、幸野が破顔した。



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