掌の中にある膨らみは熱く、強張った感触に誰かを思い出しかけた。
 蕩けた視界の中で、幸野が息を荒げこちらを見ている。
 普段は穏やかに見守り、わたしを求めているひと。すぐに気持ちは要らないと、あの男を忘れなくていいと言った。痕を付けるだけだと。
 胸に咲いた紅い染みを見つめる。幸野がわたしに付けた痕。頭の隅で何かが弾けた。
 静かに後ろを振り返る。深呼吸をひとつ、した。

 俯いたままショーツに手をかける。足首から抜く時、履いていたミュールに引っかかり、決まりの悪い思いをした。片足だけ脱ぐと、幸野はわたしの顎を掴み、顔を上向かせた。
「声は出さないで」
 制すと、スカートの中に手を入れ、膨らんだ花芽を嬲り始める。強く弱く擦りあげ、そして押し潰す。遮るものがなくなった下肢の合間から、太腿の内側にとろりと蜜が垂れる。
「や……無理。声、でちゃう……」
 声を忍んで小さく叫ぶ。それでも鼻にかかった喘ぎが漏れる。
 幸野が少し困った顔をして、蜜にまみれた指を引き抜くと、わたしの唇に押しこんだ。驚く間もなく狭間の奥に再び指が潜り、柔襞を撫で始める。自分の味がするのも厭わず、口に含んだ二本の指を吸った。ひたすら声を耐えるために。軽く歯を立ててしまったかもしれない。
「噛んでもいいです。夏目さんに噛まれるなら本望」
 内壁の感じる部分を、指先が執拗にまさぐった。気持ち良さに、襞が指を食い締める。もう間違える事はない。幸野の指だと感じとれる。どちらも一杯にされているから。
 手を伸ばして、幸野の股間の昂ぶりに触れた。チャックを下ろし、いきり立つものに指を這わす。息苦しげに反り返っているのを、トランクスから取り出した。自分だけ気持ちよくなっているのが、どこか申し訳ない。はちきれそうな幹を、手でそっと撫でる。熱い強張りをびくびくと震わせ、先走りの汁を零し、幸野が低い呻きをあげた。
「夏目、さん……」
 押し殺した囁きに、黙って頷いた。どちらも同じ気持ちだから、多分。

 幸野はわたしを抱えあげ、アスファルトの横にある石垣の上に乗せた。公園を背に座らせ、太腿のあたりまでスカートを捲り上げる。膝のあたりに丸まり、引っかかっている布切れに目がいく。幸野に脱げと命じられたショーツ。遮るものが無い茂みを、幸野の指先が玩ぶ。
 このままだと幸野としてしまう。当然の事ながら。
 幸野でない人にも、もしかしたら見つかって……。
 わたしの不安を見越したように、幸野の指が狭間に潜る。すっかり準備が整った、濡れた襞をまさぐる。じわじわと快感を取り戻しながら、覚悟を決めたような、そうでもないような、中途半端な気持ちだ。迷っているのは、こんな場所でしてしまう事に、だろうか。それとも幸野との関係が変わってしまうのイヤなのか。
 乳房を弄っている幸野の手が、先端を指の腹で撫でる。与えられた刺激に、小さく吐息が漏れた。指先で乳首をピンと弾き、わたしをもう一度濡らしてから、剥きだしの乳房を隠すようにコートの前を合わせた。
 終わりのつもりなのだろうか。怪訝な顔に答えて、
「誰かが来たら、危ないので」
 幸野は短く言うと、片手で張り詰めた固いモノを握る。喉に何か詰まった感じで、言葉も出なければ唾も飲みこめない。しどけなく素足を投げ出して、ただぼんやりと幸野を見つめている。時折、肌を撫でる風が寒い。ちりちり鳥肌が立った。
「もし誰かに見つかっても、必ず守りますから」
 そうしてくれると信じてる。でもひとつだけ聞きたい事があった。
 本当にわたしでいいの?
 言葉にできないまま、距離が詰まる。幸野の姿が、道路への視界を遮る影になったところで、瞼を閉じた。何も考えまい、何も思うまい。ただ感じられるように。

 切っ先が入り口を探り、濡れた蜜壷にあてがわれた。互いの体が触れ合う、この一瞬にドキドキする。躊躇っているのか、弄んでいるのか。焦らすように擦るだけのひと時があって、待ちくたびれたその場所から熱い露が滲んだ。はしたなさに顔が赤くなる。
 目を瞑っている間に、影が幸野でないモノに変わっていたらどうしよう。ふいに心細くなり薄目を開けると、変わらない面差しがあって安らぐ。
 その隙に屹立が押し入った。入り口の襞が巻きこまれ、ひきつる感覚に顔をしかめた。形を刻みつけるように時間をかけ、じわりと抉る。
 これが幸野の硬さ、熱さだ。穿たれ、少しずつ埋められながら、そう感じる。
 息を詰めていないと甲高い声を上げそうで、唇を噛み、幸野の胸に縋りつく。すべて打ちこまれた時、わたしは長い息を吐いた。
「動きますよ」
「ん……やっ、ゆっくり……」
 慣れない態勢に戸惑って、抱き止める腕に身を委ねた。突き上げられるたび、体が揺れる。肉茎が内襞を引っ掻き、わたしの中が幸野の形に合うように変えられていく。二人で立てる水音が聞こえる。擦られた襞が熱を持ち、溶け出している気がした。
 その動きが、いきなり止まった。
「どうし……たの?」
「バイクがこっちに来ます」
 特徴ある爆音が近づいていた。そんな事も気づかないほど溺れていたのかと、愕然とする。
「ごめん、立ってください。夏目さん」
 幸野のほうが数倍冷静だ。抱えられて石垣から下りると、蛇行しながら近づくバイクのライトが見えた。



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