それを合図にして、幸野はブラを片手で押し下げ、もう一方の乳房もあらわになる。二つの膨らみは下着でたわめられ、さして大きくない胸を際立たせた。突き出た部分が唾液に濡れて、卑猥に光る。幸野は大きく息を吐き、灯りに照らされた胸を凝視している。
「ねぇ、やめよう……だめだよ」
「どうして? 誰かに見られるかもしれないから?」
「あ、当たり前よっ」
 可能性を指摘されただけで、恥ずかしさが蘇る。思わず叫んだ声が大きすぎて、慌てて口を掌で塞いだ。
「こんなえっちな夏目さんは、独り占めしたいけど」
 膨らみを軽く握り、指で乳首を摘む。
「ぁん……」
「見られるかもって思ったら、ヘンな気分になりませんか?」
 そんなの、いやだ。想像したくない。考えたくないのに、じわじわと幸野の言葉が頭の中を染めていく。このまま愛撫に身を任せていいのか、さっきから何度も悩んでいる。
 膨らみを揺する掌の動きは優しくて、緩急をつけて先端を嬲る指先はとても意地悪だ。まるでわたしの体をずっと昔から知っているような。目を瞑ると錯覚しそうで、切なさばかりが溜まる。
 身悶えする代わりに、首を力なく左右に振った。胸の双丘を掴んだ指の隙間から、さっき幸野が付けた薄紅色のしるしが覗く。脈打つ心臓に、とても近いところ。
 そう、これのせいだ、きっと。
 弄られすぎて乳首の先がじんとするのも、快感に押し流されて幸野を止められないのも、多分。

 シワ加工された薄手のスカートが、たくし上げられる。スカートがめくられた事より、周囲の様子が気になって後ろを振り返る。
「気になりますか。誰も見ていませんよ」
 今は大丈夫でも、その後は? 見られなければ、触られても良いのだろうか。自分の気持ちがわからない。
 太腿の内側に暖かな手が触れる。そっと撫で回し、足の付け根にまで至る。羽織っているコートと長めのスカートが、都合よく幸野の悪戯を隠してくれる。
 指先がショーツのラインを下へと辿る。その先にある潤みを知られたくなくて、身を固くした。幸野の息が荒い。下着の上から三角の膨らみを手で覆い、くにくにと揉み解す。奥にある敏感な突起を揺り動かすように、目覚めさせるように、ゆっくりと。
「はっ……ん!」
「夏目さん、声」
 喘ぎが漏れそうになるのを、幸野が人差し指でそっと制した。指はほんの一瞬、唇に触れただけで、また乳房を弄ぶ。わたしの喘ぎを止めようとするより、激しくなるのを幸野は望んでいる気がして、ぞくりとした。
 スカートの中に潜りこんだ指が、ショーツを片寄せる。頑なに閉じている襞を、指先が割って開く。
「すごい……」
 驚いたような幸野の声に、耳を塞ぎたかった。ショーツが湿っているのは分かっていたけれど、秘裂を指で掻き回されると、堰を切ったように蜜が溢れてくる。熟れきった花芯を探り当てられて潤みは更に増し、くちゅっと水音を立てた。
 これではまるで、幸野にされるのを待ち望んでいるようではないか。
「夏目さんて、濡れやすい?」
「ば……ばかっ」
 気持ちより体が暴走している。体が、懐かしい感触を欲しがって疼く。
 幸野の指が合わさった陰唇を縦になぞって、切なさに泣きそうになった。足元がふらつく。立っていられなくて肩にしがみつく。
 粘つく音が耳を刺激し、風がスカートの裾を揺すった。
 誰か、止めて。わたしが気持ちよくなるのを、止めて。
 指が襞を開いて、膨らんだ突起を剥き出しにする。やさしく撫でる指先に、思わず唇を噛んだ。
 いつまで耐えていられるだろう。声を抑えている自信がない。
 襞を掻きわけ、花芯を捉え、指は少しずつ潜りこむ。潤みに指が沈んだ時、わたしは小さく声を出した。蜜の溢れる源に、指が抜き差しされる。靴先でぬかるみを掻き回すような音も、激しくなっていく。聞こえている水音が、自分の体から出ているとはとても信じられず、打ち消すようにかぶりを振る。
「だめ、幸野さっ……イっちゃう……から、やめて……」
 快感に煽られて、立っているのも覚束ない体を揺らし、両腕で幸野の首筋に縋りつく。
「黙って」
 幸野は囁くと、ぬかるみから指を抜いた。
「イキたいなら、下着を脱いで」
 頂点の手前で取り残されて、頭がぼんやりとする。指を抜かれたすき間が、寂しげにひくつく。ふと周りを見渡した。静かな街並み、遠くで聞こえる微かな車の音。こんなところで下着を濡らして、わたしは何をしているのだろう。
「いま誰も来ませんよ。ね、脱いでください」
 指先が、下着の上から突起をまさぐる。そこから疼きが広がっていく。
 幸野がわたしの手を取り、ズボンの膨らみに添えた。はちきれそうになっているそこを、掌でそっと撫でる。
 覚悟を決めろというのだろうか。



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