Tears ――5



「巻き込んでゴメンッ! ホントにごめんね」
 ひと心地ついた委員長は、俺に謝り倒した。お互い様っていうか、気にすんなって思った。やわやわの胸もだいぶ堪能したし、いいモン見せてもらったし。
 特にどこへ行く当ても無かったので、眺めのいい場所に二人して座った。曇り空には小さなコウモリが餌を求めて乱舞して、夕闇が濃くなってくる。もうすぐ日暮れだ。
「あの、さ。いつから……見てたの?」
 えー、最初からデス。そう言ってイイんだろうか。マズイな。
「スゴイとこ、見られちゃったね」
 ノーコメントは全肯定と認められたらしい。気まずい俺と違い、委員長は意外とサバサバしている。
「約束、あったんだろ? 駅に行かなくて良かったのか?」
「やっぱり、ずっと見てたんだ」
 そう言って、恩田は笑った。
 くそぉ、笑うと可愛いじゃねぇか。
「あたしさぁ。コウに、金がないから援交して来いって、言われたの」
「はぁ?」
「駅前にオヤジひとり待たせてあるからって」
「そんなんでいいのかよ。委員長、さっきの奴と付き合ってんじゃないのか?」
「桂木、声でかすぎだって」
 犬の散歩をさせてるオバハンが、じろじろこっちを見ていた。
「すまん」
「付き合って、いるのかなぁ? よくわかんなくなっちゃったよ」
 そう呟いて、恩田は笑った。すごく寂しそうに。
「ホテル行ったら、頃合い見計らって、財布だけ抜き取って来いって」
 開いた口が塞がらない。そんな事させるのって、恋人同士と言えないじゃねーか。
「さすがにそんなのヤだからさ」
 また笑った。今さらながら、委員長が笑ってるところって、見たことないなと思った。
「恩田、でいいよ」
「え?」
「ガッコじゃないんだし、委員長とか言うの、やめてよ」
「じゃあ、えーっと、恩田」
 咳払い、ひとつ。なんか呼びにくい。
「あのな、なんでもっと怒んないんだよ。そんなの、いくらなんでもひどいって」
「あたし、写真撮られてたから。ヤってる時の」
 写真……ヤってる時の。頭の中でリフレインした。すごく衝撃的なコトを言われたような。
 それって、ハ、ハメ撮り?! 委員長、もとい恩田と、さっきの奴との。
 言葉に詰まってしまった。
 隣を見れば、着ているキャミソールから、量感のあるノーブラの胸がはっきりと分かって。さっきと同じように、そのてっぺんがポチっと尖っている。この胸を鷲掴みにされて、形が変わるまで捏ね繰り回されて、股おっ広げてハメられて、そんで、そんで……。
 やべ。リアルに妄想できてしまった。
 顔が上げられない。
 俺の頭ん中、恩田を裸にひん剥いて、ズコズコ突いてた。突きまくってた。
 下向いても、ミニスカの裾から、むちっとした白い太腿が。ああ、もう。
 こういう場合、どんなツラして恩田を見たらいいのか。はっきり言って、俺もさっきの奴と同じだし。いや、それ以下かも。最初にノーブラの胸見た時から、勃ちまくり。今はもっとビンビンで。
「バカだよねー。ウマイこと言われて、写真まで撮られちゃって。あいつには、ただの使い捨てだったのに……さ。あたしの他にも、女いるみたいだし」
「……やめろよ」
「そんでも撮られてる時、すんごく愛されてる気がして、キモチよくって……あ、バカっていうより、変態? そうだね、ハハッ」
「やめろって!」
 こんな風に露悪趣味な恩田は、らしくない。変態でも構わないし、むしろ歓迎だけども。いやいや、そうじゃなくって。
「ねぇ。桂木のうちって、この近く?」
「ん? 歩いて五分もかからねーかな」
「桂木のうち、行きたいなぁ」
 へっ??
「桂木とシたいの。……それとも、こんな女はキライ?」
 掠れたような声だった。恩田の瞳が俺を覗きこむ。宵闇が辺りを包みこんで、彼女の表情がよく見えない。
 俺は返事もできずに、口で息をした。パクパクと、ただ金魚のように。


To be continued.



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