破れかぶれになった私は、焼けるような高校生活を送った。
 どこそこにカッコイイ人が居るだとか、どのクラスの男子が可愛いだとか、そういうウワサを聞きつけるたび、私は当然のように現われて、口説いて、口説いて、口説きまくった。
 ホイホイと簡単に付いてくる尻軽男。
 いや、尻が軽いのは、私。
 んじゃチン軽男? ふふ、まぁ、どうでも良いけどさ。

 私は男に、自分をアピールさせ続けた。
「キミの良い所、私に教えてよ」
 男が集まり、季節が移ろうように、すぐに消えて行く。
 顔が良ければ巧いというワケでもなく、自意識過剰とは何か、という確認作業になった。
 柔道部の部長と寝た時は、凄く乱暴で、勘違い至極な奴だった。例の如く自意識過剰で、ナルシスト。つまらないから、一番強いヤツと寝てやると言ったら、部員みんなが血相を変えて殺し合いをしたっけ。

 負けた男達の前で、見せ付けるようにしてキスをした。
 勝った男は二年生で、私と同級生だった。隣のクラスの知らない男。顔を真っ赤にして私の胸をまさぐる、モテない童貞。そんなのに弄ばれる私を見て、柔道部部長は胴着にテントを張っていた。
 ふふん、全く馬鹿なヤツ。
「後輩に負けて悔しくないの? ちんぽも後輩に負けてるわねぇ」
 と言って、悔しがる男子を挑発する。
 この後、私の体で遊んだ子はボコされるだろう。そう思いながら、わざとらしく結合部を見せ付け、飛び切りいやらしく、下劣な女を演じた。

 そいつのアレは大きくて、私も盛り上がった。そいつも初めてだけあって、随分と楽しんでいた。
 中に出されるたび、頭がぐちゃぐちゃになる。それがしたくて、とにかく感覚を飛ばしたくて、男の体でトリップした。
 歯噛みする男の前で、別の男に抱かれる。なんて良い響き。クソみたいな関係が、私に快感をもたらす。
 愛してるよ、の重い響きが、子宮を叩き、睾丸から恥知らずの汁を迸らせた。浮くような快感と、斬れる様な心の喜びが、私の思いを癒す。
 何度もキスをするたび、また、私はその数をカウントした。
 頭に焼き付くような羞恥心と、それに勝る快感。充足感。ヤラせて上げるからって言って盗ませたメロンを食べた時は美味かったなぁ。それに似てる。
 濃厚なキスシーン。
 部員に見せ付ける、奔放なセックスシーン。
 何度も、何度も、天下一武道会は繰り広げられ、歯噛みする敗者と、涎を垂らして喘ぐ勝者が選抜された。

 それは、すぐに問題化した。
 詰め寄る両親、教師。うるさい。
 私を取り巻く環境は、雑踏に満ちて、ちょっとした高揚感を伴った。
 ウルサイナママニハカンケイナイデショアンタハカンケイナイデショキエテヨジャマヨウザイノヨシッタコッチャナイデショワルイコトナンテナニモシテナイデショワタシニハジユウハナイノウルサイヨソダテタオンデワタシヲシバルナラシバリナサイヨウザイッテイッテヤルカラナンドデモイッテヤルカラ
 押しが強い事で、全てを成し遂げた。
 私の叫びは私の耳に五月蝿くて、とても私はそれが気持ち良かった。発声の出来てる私。何度コーラスで花形になった事か。
 当然、パパとママと私の関係は破錠した。

 その後も、何人もの男が私の体を駆け抜けて行った。
 おもねる男達。お前に興味は無いよと言わんばかりの目をしながら、私のケツを眺め見るチェリーボーイ。そして自意識過剰な男達。
 暫くすると、アレが巧い男とヘタな男の見分け方のコツが分かって来た。それは、配慮の有無。
 人を見て人に接する人と、自分しか見ない人、どちらが巧いかなんて、比べるのもバカらしい。
 あぁ、あの人は巧いだろうな。配慮、配慮、配慮、配慮、配慮…。私にデリカシーは無い。

 そう、上手いヤツは、配慮の出来るヤツ。
 どうせ体目当ての癖に、デートコースの計画だけはやたら念入りで、配慮の出来るヤツ。でも、そういうヤツじゃないと、灼けるような快感は得られない。
 私はそのパターンを踏んで、見事篭絡される。シナリオ通りの、時計仕掛けの恋愛群像。
 夢破れたり、恋敗れたりのフラれ女達は、それが欲しくて堪らない。だから固唾を飲んで、颯爽とした男達に色目を使った。
 それを持って行くのは、顔が良く、ナイスバディなこの私。ふん。
 体目当ての男達には、顔と体しか武器は無いのか。

 この前、珍しくラブレターを貰った。それはとても嬉しかったが、何しろその相手の顔がアレなので、うげって思った。
 だから、その人の前でラブレターを破って、細かく千切って、食べて見せた。笑いには体張る方なのよね、私って。
 唖然とするその人に、いきなりキスをして、んべーっと食後のベロを出すと、変な顔をして逃げて行ったっけ。
 あれは512回目のキス…。そう日記に書いてあった。
 良い人がモテれば良いのにさ。中々上手く出来てないよね。
 結局は…良かろうが悪かろうが、出来るヤツは出来て、出来ないヤツは出来ないだけ。好き嫌いも、まるで技能のように、駆け引きの道具に使われていった。

 そんな奔放な私に降りかかる好機。
 奇跡は、何も無い所にこそ似合う。


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