瞼を閉じ想像してみる。目の前に誰かがいて、私を見ている。
『見せて』
『や……そんなの』
口先だけの抵抗。凝視する黒い瞳。股間に感じる疼きは、尿意のせいばかりではない。ひとりだけの予行演習。ゲームめいた試みを、好奇心から受け容れようと思う。普段と同じなのだから。変わるのは、見つめられていると妄想する、私の気持ちだけ。
トイレのドアを閉めようとして思い直し、僅かばかりあけておく。開いた扉で、四角く切り取られた廊下の闇。暗がりからこちらを窺う視線を意識した。
どくん。胸の鼓動が早くなる。パジャマのズボンとショーツを下げる、いつもなら何の変哲もない一連の動作が、幾つもの眼で見つめられている気がするのだ。便座に腰を下ろして首を振り、おかしな妄想を頭から追い払う。たとえ想像の中であっても、見せる相手は誰でもいい訳じゃない。
少し考えて、膝上で丸まっていた下着を、パジャマと一緒に足首までおろす。見られるためには、こうでなければならない。何故かそう思う。足元には脱いだ衣服の小さな山ができた。わずかな躊躇いのあと、膝を開く。あらわになった素足に夜の冷気が忍び寄り、つかのま忘れていた尿意を思い出させた。
尿道を駆けおりる熱いもの。下腹の力を緩めれば、すぐにでも迸りそうだ。それを我慢すると尿道口に刺激が走る。水面に落ちた雫のように、微かな気持ちよさが広がった。
襞が収縮と弛緩を繰り返し、この瞬間を引き伸ばす。ぽつり、またぽつりと、快感の波紋が大きくなる。放尿してしまえば甘美なひとときも終わると知っているから、一秒でも長く味わおうとする。
「ん……んっ……んーーー」
唇から細い声が漏れた。狭い空間で反響したその声は、自分のものとも思えない不可思議な音色だった。蕩けた感覚から引き戻され、うっすら瞼を開く。
誰もいない廊下。もう一度切り取られた暗闇を見つめる。そこに慣れ親しんだ男の姿がぼんやり浮かんだとき、心がピンと張り詰めた。
『“見られている”気持ちになって、排泄してみるんです』
こんな夜更けに足を広げ局部を見せて、おしっこをしようとしている自分。暗がりからの視線を意識し、排泄行為なのに感じている。
「あっ……」
開いた膝が震える。恥ずかしくて、見られたくなくて。なのに快感は強まっていく。
熱を帯びた秘処が、断続的にびくびくと痙攣した。濡れているのを自覚したくない。ぬめっているかもしれないソコを、指で触れる事もできない。それでも熱い滴りが、ひとしずく垂れて。
ぴちょん。小さな水音。
見ちゃ……ダメ。こんな私を見ないで!
全身が羞恥に染まり、足を閉じようとした。
『もっとよく、見せて』
聞こえたのは、幻の声。だが、反射的に両の掌を太腿にかけ、押さえる。閉じようとする足と、その力が拮抗した。
「ひぁっ」
見ないで、みないで…………見て。
両手の力が勝り、足がゆっくりと大きく開く。
ありのままの私を、見て。
『そう、よく見えるよ』
ひくついて蠢くアソコも、おしっこが出そうな尿道口も、充血して固くなっているに違いない突起も、全部ぜんぶ丸見えで。けれど感じてしまって、アソコがびくびくして止まらない。恥ずかしいのにキモチよくて、おしっこをしようとしてるだけなのに、イってしまいそうになる。
ヒミツの遊びができるから、トイレは大好きだった。ほんのちょっぴりの快感を、いつも抱きしめている場所だった。視線を想像するだけで、そこはどんどん火照っていく。ブレーキが効かなかった。自分の体なのに、こんなのおかしい。太腿を掴んだ指に力がこめられ、両足の爪先まで突っぱる。
「あぁぁぁっ」
名残のように秘処がやわやわと蠢く。信じられない絶頂の訪れに、呆けたようにトイレの壁を見つめていた。未だ痺れの残っている秘裂から、熱いものが零れだす。ちょろちょろと水音がした。熱に浮かされたように、そのままの姿勢で私は放尿していた。
ふらつく足取りで部屋に戻る。見つめられていると想像するだけで達した事が、私に衝撃を与えていた。
電話のベルが響く。こんな時間に電話をかけてくるのは、多分ひとりしかいない。
「起きていたか」
「そろそろ寝ようかと……思って」
「そうか。機嫌でも悪い? 声の調子がヘンだ」
「別に。なんでも、ないよ」
「声が聞きたかっただけだから。じゃあ、おやすみ」
「ん……おやすみなさい」
男が電話を切っても、受話器を耳に当てていた。
ツーツーツー。
その音を聞きながら、右手はショーツの中に潜っている。
もっと声が聞きたかったのかもしれない。でも今は何を話していいか分からない。
時間が経っても、そこはまだ収まらない熱を持っていた。花唇の入り口をなぞり、指先を潤みに沈める。粘つく汁を掻きまわすと、ぴちゃりと卑猥な音が響く。溢れたぬめりを指先に塗りつけ、固くしこった花芽を捉える。円を描くように擦り、突起を左右に揺らすように揉むと、すぐに痺れる快さが訪れた。びりびりする刺戟と、頭の芯でチカチカと瞬く光。
受話器を抱きしめ、ツーツーと鳴る音を睦言のように聞いて、高みへ昇る。先程より強い衝撃、震えるほどの愉悦だ。でも、見つめられていると感じたトイレの中と、何かが違う。
気だるいまどろみ。眠りに引きこまれる前に、あの掲示板の書きこみを思い出す。
『ひとつ予行演習をしてみてはどうでしょう。
それで抵抗があるようなら、はっきり断ればいいと思いますよ』
もう答えは出ているような気がした。
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